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夜、頭の中にゴチャゴチャと無駄な考えが絶えず動くせいで眠れなかった。時計の音だけが鳴り響く部屋は孤独だ。北斗くんがすぅすぅと寝息を立てていても。むしろ孤独を増長させるような気すらする。体を起こしてそのままぺたりと座り込んで、北斗くんの顔をじっと見つめる。私の目はすっかり暗闇に慣れてしまっていて、綺麗な鼻筋や唇が存外良く見える。
この人を自由にしたいと思う気持ちは嘘ではない。世界というものがどのような大きさなのか、私は全く知らない。それでも、この部屋で2人きりでいる今の世界を世界と呼ぶには相応しくないことを知っている。だから、北斗くんは自由になって知るべきだと思っている。
でも、そのあとは？それで切り捨てられたとき、私は笑えるだろうか。お元気でと、幸せになってと背中を押せるだろうか。…きっと無理だ。私の幸せは彼が与えてくれるものだし、彼にとって私がそうだったらと思ってしまう。本当にそうだったら。もしも、私が求めるように北斗くんが私を求めてくれるのなら。考えただけで心が満ちていく。えも言われぬ多幸感とそのすぐあとにやってくる切なさ。所詮は私の幸福な空想でしかなく、事実では無いのだから。
腰を折り曲げて、北斗くんの鼻先に耳を近づける。時計の音よりも寝息の方が頭に響いて安心した。夜はダメだ。出口のない思考にグルグルと迷い込んでしまって、ナイーブになってしまう。頭で考えるより、行動に移した方がずっと楽なことを知っているのに。今まで生きてきて、案ずるより産むが易しという言葉の正しさをきちんと知り、実感してきたというのに。
腰、というより腕とお腹の筋肉がプルプルと震え出したので1度起き上がった。さっきよりも時計の音が気にならず、頭の中がクリアになった気がする。北斗くんの寝息にはアルファ波のような効果があるのだろうか。もう一度腰を曲げ、北斗くんのおでこにそっとキスをすると、反射的に抱きずくめられた。胸板から北斗くんの匂いがする。絡められた足の温かさが心地よくてと腕が力強くて、また安心して瞼が重くなる。北斗くんが今ここにいてくれることこそが全てだ、という考えが頭に浮かんだあと、いつの間にか眠っていた。
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作者名：睡蓮 | 作成日時：2023年5月30日 1時
