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「1ヶ月間、北斗くんの家で過ごしたのが効いたのかも。」
「あはは、確かにそうかもしれない。」
「本当に不思議だったな。」
「そうだね。有り得ないはずなんだけど、変な話、2人揃って記憶があるもんだから事実だって思わざるを得ないよね。」
私が目覚めた日、テーブルの上にフレンチトーストが置いてあるのを見てひっくり返るぐらい驚いて、食べてみると、冷えて固くなってはいたけど私がいつも作るのと同じ味で更に驚いたらしい。北斗くんが作った可能性も0ではないと考えたみたいだけど、レシピも知らないのだから作れるわけがないと言っていた。
だからといって、すぐに信じられるわけではないし、私もそのことをわざわざ口にしなかったからずっと引っかかっていたらしい。
「すぐに聞いてくれればよかったのに。」
「いや、普通頭おかしくなっちゃったんだって思うだろうから流石に隠すよ、そりゃ。」
「それもそうだね。私が覚えてなかったら変な人だもの。」
「勇気出して聞いた挙句、変な人扱いされたら最悪だな…。覚えてくれててよかった…。」
真剣な顔でよかった、と繰り返しているのが面白くて笑ってしまう。そんな私に気がついて不貞腐れた顔をした。
「なぁに笑ってんのよ。」
「可愛くて、つい。」
「ついじゃないのよ。こら。」
北斗くんは私の頬をつまんで揺らした。お風呂上がりでぼおっとしている頭がちょっとだけゆらゆらする。
「んふふ。好きよ。」
「俺もだよ。」
そう言って、北斗くんは私に触れるだけのキスをした。優しいキスは私の心をあたためるけど、同時に物足りなくもなる。そういうこと、は私が事故に遭ってから一切できていない。激しい運動はそもそも出来ないとは思いますが控えてください、と担当医から暗に止められてしまったし、私も受け入れる体力も筋肉もない。北斗くんは何も言わないが、それも私を気遣ってのことだろう。
我慢をさせてしまっている。それは紛れもない事実で、私が北斗くんに引け目を感じている原因の1つでもある。
でも、もし北斗くんはそう思っていなかったらどうしよう。触れたいのは私だけで手を伸ばしたときに拒絶されたら、と思うと踏み出せない。それに、我慢をしてくれていたとして、私が触れたいだけ触れるのは良くないことだと思う。
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作者名:睡蓮 | 作成日時:2023年5月30日 1時