検索窓
今日:36 hit、昨日:16 hit、合計:22,280 hit

25 ページ25

.


 砂浜を踏みしめるたびにぎゅっぎゅっと鳴る音や全てを抱き抱えるような広さの海と乱反射する光、そして波の打ち寄せる音。そこにある全てが美しかった。……生きていると思った。そしてAに見せたいとも。Aが今の生活を不健全だと言い、しきりに外に出たがる理由がわかった気がした。どんなに幸福でも家の中にいると空気が篭もる。そして生気が死んでゆく。多分これはすごく感覚的なもので、ある種のスピリチュアル的なものだ。


 海は二度と同じ形にはならないが、そこにあるということも変わらない。Aとの関係性が変わることを恐れる必要なんてなかったのだ。愛しているから、それでいいと思った。お互いの気持ちがあれば、在り方が変わったとしても本質的な部分が変わることは無いと思った。


「楽しんでんな。」


 京本の隣にいたはずの樹がいつの間にか俺の後ろに立っていた。


「黙っててって言われたけど、北斗の顔みたら言いたくなったわ。
Aちゃんがお前のこと連れ出してくれって言ったんだよ。」


 樹が海に行こうなんて珍しいと思っていた。Aがそう言ったと聞いて、腑に落ちた。

「Aがそう言った理由がわかったよ。
後ろ向きだったのよ、俺。繋ぎ止めようとか、治ったら俺から離れていくんじゃないかとかそういう良くないことばっかり頭に浮かんで、どんどん疲れていくし、2人で部屋に篭ってるとそれがぐーっと加速していって止められなくなっちゃってたみたいでね。
外に出て体で感じると、そういうことがよく分かる。
自分を客観視できたような感じ?海見て心が洗われたような感じがする、とかってほんと、陳腐なのはわかってるんだけどさ。やっぱり大事なのね、こういうのって。」


 俺が一通り話終わるのを、相槌をうちながら聞いていた樹が笑った。

「ほんっとうにお前ってよく喋るのな。びっくりするわ。」
「うるせぇな、喋るのが好きなんだよ。」
「あと思ったのがさ、Aちゃんって北斗のことよく見てるよな。」
「それは俺が一番よくわかってるよ。毎日隣にいるんだから」


 樹がやれやれと首を振った。また始まったか、という顔をしている。




.

26→←24



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (53 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
248人がお気に入り
設定タグ:sixtones , 松村北斗   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:睡蓮 | 作成日時:2023年5月30日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。