検索窓
今日:12 hit、昨日:16 hit、合計:22,256 hit

22 ページ22

.


 いよいよ喉を唾液で潤しきれなくなり、諦めて起き上がった。Aがいないからとベッドの真ん中で寝たはずなのに、右側には1人分の空間が出来ていた。Aを好きでたまらない自分を少し笑った。そして緑茶でも飲もうとキッチンに向かった。


 寝室はリビングに繋がっていて、この家のどこにもAがいないことを思い知らされる。Aを見送ったあとの部屋は、どこもかしこもAの気配がするのに本人だけがいなくてちぐはぐだった。2人分のお茶を入れてしまったり、お風呂を沸かしたあと呼ばれるのを待ってしまったりと、とにかく上手くいかなかった。いないことによって、Aの気配が強まったような気さえした。


 そしてなにより、Aのいない部屋が恐怖だった。記憶が曖昧な頃に戻ったようだった。暗い部屋でじっと座り込み、絶望の匂いの中で来る日も来る日も世界を呪い続けた日々。あのときとは違う。もちろんそれは理解している。それでも心が追いつかなかった。


 つい数時間前までAがいたことで、あの頃と記憶が戻ったときが重なるようにして迫ってくる。もう戻っては来ないと告げられたような気分になった。悪い考えを追い出すようにゆるゆると頭を振り、自分に言い聞かせる。


 大丈夫。Aは戻ってくる。


 ともあれ、明日のためにもう一度寝なくてはいけない。




.

23→←21



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (53 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
248人がお気に入り
設定タグ:sixtones , 松村北斗   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:睡蓮 | 作成日時:2023年5月30日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。