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金曜の夕方、Aのお母さんが車でAを迎えに来た。実際に顔を合わせるのは1ヶ月ぶりだった。病院で会っていた頃よりも健康的な表情をしていて安心する。
「こんにちは、松村くん。」
「こんにちは。いつもお世話になってます。」
「こちらこそ…Aのこと任せちゃって本当にごめんなさい。いつもありがとう。」
「いえ、俺がやりたくてやってるんです。」
心から、そう言った。リハビリが終わったときや体が言うことを聞かないとき、Aはぼうっとしたあとに泣きそうな顔になる。本人はそんなつもりがないことに胸が痛む。そして、その度に1人でこんな顔をさせずに済んで良かったと思う。泣きたいときに隣にいられないのでは意味が無いから。
「Aはどこに?」
「自分で階段を下りるって言って聞かないので、先に車椅子下ろしてきました。今様子見てきますね。」
「あの子、階段を下りられるようになったの?」
「…はい。どんどん、自分でできるようになってます。」
Aが自分の手から離れていくことに対して、忌避感や焦燥感を抱いていることがバレないよう、背中を向けて答えた。
踊り場まであと1段というところにAはいた。一生懸命な顔で、手すりにぶら下がるように掴まっている。声をかけると、眉間に皺を寄せて、力んだような表情のままこちらを向いた。
「大丈夫だよ…。」
「1人でここまで降りれたんだね…。すごいね。」
「ありがとう。」
「支えるよ。」
「ううん、お母さんに階段降りてるところ見せたいの。」
「そっ…か。」
「でも、落ちないようにそばにいてくれる?」
「…あぁ、もちろん。」
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作者名:睡蓮 | 作成日時:2023年5月30日 1時