√D! (ページ1)

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鈍色-黄緑ページ1

「Aー？」

部屋にいる彼女にそう呼び掛ける。きっと絵でも描いているのだろうなと思いながら南京錠に鍵を差し込んだ。
床に置いたカレーを乗せた盆を持ち直し、ガチャ、と音を立てながらドアノブを回す。

「俺の愛情たっぷりカレーやで」

Aは緩慢な動きでこちらを振り返った。木製の机には絵の具がこびりついている。

「今日はどんな絵描いたん？見せてや」
「……あめ、雨を、描いたの」

窓からは鈍色の曇天が覗く。部屋に飾られたキャンパスも灰色ばかりで、ここにいるだけで気が滅入ってしまいそうだった。
しかし、Aをここから出すわけにはいかない。
そういえば、あの日だまりみたいな笑顔を一体いつから見ていないか。

「上手に描けたなぁ」

カレーを机の上に置いて、頭を撫でてやる。

「そうなの？」
「おん。Aは生きてるだけで偉いんやで」
「へぇ……」

起伏の薄い彼女は、一切表情を変えずにじっと俺を見つめた。それになんだか胸がざわついて、空回りしているような気分にさせる。

「じゃあちょっと片付けるな、昼飯やから」
「わかった」

カレーは辛くて味が濃いから、俺の特製隠し味も隠したまま、彼女の体内に持ち込むことができる。
ずっとこの部屋に閉じ込められているAは運動していないからか筋力が落ちてきていて、色が混ざって濁った水の入った筆洗がするりと手から抜け落ちた。

「ごめんなさい」

水が広がり、床板に浸透していく。無感動なAにどこか寂しくなった。

「ええんやで。無理せんでな」
「うん」

部屋に置いてある雑巾で水分を拭き取り、窓際に置く。

「Aは俺が居ないとダメやなぁ」
「そう……だね」

膝から崩れ落ちた彼女を優しく持ち上げ、そっと椅子に座らせる。
スプーンを掴んでカレーを掬おうとしているが、慣れていないからかなかなか掬えない。

「俺が食べさせたるから。ほら、あーん」
「あー」

どろりとしたカレーが、彼女の赤い舌に融けていく。