酒場のマスターはトリッパー (ページ30)

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28杯目ページ30

人質役の人が太宰さんに連れ去られていくのをただ見ていた僕。

(なんか台風が過ぎ去ったみたいだな・・・)

それにしても大丈夫なのかな、あの人・・・⁉

「あの、国木田さん・・・」

「なんだ敦」

「あの人質役の人はどなたですか？ここの関係者、ではないですよね？」

「あぁ、あの人は裏の界隈で有名な無名の酒場のマスターだ」

「むなの、酒場？」

「無名(むめい)と書いて無名(むな)だ」

「変わった名前ですね・・・？」

「この名は噂されて付いた名だ。店名、ましてやその店の正確な場所さえ、明らかになっていないらしい」

「へぇ～」

世の中不思議なことでいっぱいだな。

でもそれじゃあ、お店としてやっていけないんじゃ・・・

そもそも、場所もわからないのにどうして噂になってるんだ？

・・・今度あの人に聞いてみよ。

それから僕達はこのビル一階にあるうずまきへと向かった。

「いらっしゃいませ。あら、探偵社の方々」

国木田さんは給仕さんに

どうも、と軽く会釈をしてカウンター席に座った。

僕と谷崎さんとナオミちゃんはテーブル席に座った。

ナオミちゃんはあの試験が終わってから、谷崎さんから離れようとはしない。

ここへ来る前、

「せっかく兄様と楽し・・、試験のお手伝いが出来ると思ってましたのに・・・。
でも兄様のあの緊迫とした表情、演技力・・・
じっっっくりと眺められましたので、それはそれでよかったですわ♡」

それから何をしていたのかは考えないようにしよう・・・。

僕達がそれぞれ注文をした後、

「すんませんでしたっ！」

谷崎さんに謝られた。

「へ？」

「その、試験とはいえ、随分と失礼なことを・・・」

「ああいえ、いいんですよ」

(意外といい人だ、この人)

「何を謝ることがある、あれも仕事のうちだ谷崎」

「国木田君も気障に決まってたしねー」

どこからともなく聞こえたその声の主は太宰さんだった。

「独歩吟客！」

国木田さんの真似かな？

「ばっ、違う‼ あれは事前の手筈通りにやっただけで・・・！」

店の入り口から国木田さんをからかう太宰さんの後ろには、あの人質役のマスターさんがいた。

「ほらマスター、入らないと手放してあげないよ？」

「ーーーー/////」(カアァ////)

マスターさんは左手ではにかむ顔を抑えながら、太宰さんに手を引かれていた。

え、マスターさん太宰さんに何されたの⁉