-5-初めての食事 ページ6
「…これ、私、に？」
「そうよ♪」
「食べて、いいの？」
「ええ、勿論！」
それでもなおじっと器を見つめるAに、ザンザスが口を開いた。
「食ったことねぇのか、A」
その言葉に、Aはただ、コクリと頷いた。
「こんなの、見たことも、食べたことも、無い」
綺麗な声で放たれた言葉に、ザンザスさえもが驚いた。
「ガキ、テメェ今まで何食ってたんだぁ…」
スクアーロが聞くと、
「…食べられそうな草とか…人が捨てた残飯とか……？」
告げられたのは、まるで野良犬達が食べるようものばかりだった。
「ちゃんとした、食事？って、食べたこと、無い」
「食い方、分かるか？」
とは言っても、レンゲで掬って食べるだけなのだが。
「じゃあ私が「いい、俺がやる」」
ルッスーリアの言葉を遮って、レンゲを奪い取り食べさせる準備をするザンザスに、幹部達は目を点にするばかりだった。
「…？」
一人、何も知らずきょとんとしている本人を除いて。
「…口開けろ。A」
後ろから抱きしめられたまま、言われたことに従うA。
すると、口元に一口分のお粥を入れたレンゲが持ってこられていた。
「開けてろよ。火傷したくなかったらな」
その言葉とともに、口の中にレンゲが入れられる。
それが傾けられ、お粥が口の中に入ってくる。
「…食えたか？」
程よく冷まされたお粥を咀嚼する。その味は、今まで食べたどんな物よりも暖かく、優しい味がした。
「…おい、しい…」
ふにゃりと頬を緩ませたAに、出会って間もないはずの幹部達も自然と笑みを浮かべていた。
それから、ザンザスの見よう見まねで自分の手でレンゲを持ち、自分でお粥を食べていった。
「ごちそうさまでした」
「そのへんは知ってんだな」
「うん」
満足そうに微笑むAの頭を撫でるザンザス。
いつもの彼を知っているものからすれば、かなり驚く光景が目の前で繰り広げられていた。
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作者名：紅雪 | 作成日時：2019年4月7日 3時
