朱に捕らわれば赤くなる６【赤司征十郎】 (ページ46)

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第282話：ぴかぴかページ46

でも今、かわいい、似合ってるって言ってくれたよね。
えへへ、……やったぁ。

照れる素振りも言い淀みもなくさらっと当然のように並べられる褒め言葉は、聴き逃しそうで危ない。
いつもはすぐ照れてしまうけど、今日は一つも聴き逃したくないし、耳に焼き付けたい。

｢嬉しいな。今日の君を一日エスコートさせてもらえるなんて光栄だよ。

時間が惜しいから、そろそろ行こうか。｣

｢……はい！｣

手で押し留めて開けっ放しだった扉を静かに戻しながら、行ってきます、と中に声を掛ける。
リビングからにょきっと親指を立てた母の拳だけが見え、扉が閉まった。
なにそれ、無駄に格好いいな。

視線を外に戻すと、家の前の路傍、左側に寄せたぴかぴかの黒い車が止まっている。分からないけど、多分高級車。

｢お手をどうぞ。｣

玄関先の少しの階段に足を掛けた赤司さんが、恭しく片手を差し出している。

｢……ありがとうございます、｣

素直に彼の左手に自分の手を重ね、優雅なエスコートに身を任せる。
車までほんの数メートルだけど、拒む理由はない。

辿り着いた車は表面が鏡のように磨き抜かれている。
赤司さんが開けてくれたドアの内側、見える内装も明らかに上品で、良い匂いがするので緊張してしまう。
そおっと座った後部座席はふかふかで気持ちいい。あと広い。

赤司さんが反対のドアから隣に乗り込み、簡単に運転手さんのお名前だけを紹介してくれる。

｢み、水織Aです。迎えに来ていただいてありがとうございます。
今日は一日お付き合いくださるそうで、あの、よろしくお願いします、｣

｢こちらこそ。本日は安心してお任せください。
聞き耳は立てませんので、どうぞ居ないものと。｣

渋いおじさまの声と、白い手袋を付けた手がすっと一瞬立てられたのを合図に、車が音もなく走り出した。

す、すご……なんだかすごい所に来てしまった感がある。
映画とか、違う世界線、のような。

｢ふふ、そうあまり畏まらずに。
せっかくのデートだ、2人きりだと思って楽しもう。

僕とも、今日は一日、よろしくね。｣

｢よ、ろしくお願いします……！｣

最早どれに対してなのか分からない胸の高鳴りは、今日は静まる暇はあるのだろうか。
一日、どきどきしっぱなしかもしれない。

そんな風に予感しつつ、窓の外、快晴の空を見上げる。
今日は一日晴れるらしい。お出掛け日和と言っていい天気だ。

待ちに待った赤司さんとの初デートが、いよいよ始まる。