第270話:お誘い ページ34
同情や可哀想なんて感情は彼女に失礼だ。
そんなのAは望んでいない。
けれど、彼女のために何かしてあげたい、僕に何か出来ることはないのか、と考えることは辞められない。
彼女が気を遣わなくてもいいやり方で。
つまり彼女にとっての負担が少なく、そう、引け目を感じさせない為に、2人にとってメリットがある解決方法が必要だ。
そんな思考が追い付く前に、答えはとっくに出ていた。
「ーーーでは、僕と2人なら、どう?」
え、と彼女が発声したそのすぐ後、否定や疑問を挟む隙をまるで与えず、僕は「たとえば、」と続けた。
「送迎は僕の家の者に頼むとして、僕が昼頃Aの家まで迎えに行く。
落ち着いて食べられるカフェなんかに入って昼食を済ませたらどこか……そうだな、美術館とか、映画館とか、Aが行きたいところ。
屋外でもどこでもいい、好きな場所で羽を伸ばして。
そしたら、まだ体力が残っていれば近くを歩いたり買い物をしたりしてもいいし、疲れたら早めに帰宅して次回の楽しみにしてもいい。
もちろん、周りを気にせず楽しめるように、人が多くない場所は選ぶし、僕がAを守る。」
彼女を圧倒しないようにできるだけゆっくり提案するつもりが、どうしても普段よりは早口になってしまった。
何が「たとえば」だ、こんな具体的すぎる提案、前から考えていたと言っているようなものじゃないか。
考えるより先に言葉が出てくるなんて、僕らしくないのに、Aの前だといつもこうだ。
逸る気持ちが、くそ、恥ずかしいな。
断られたらそれこそ格好がつかない、どうしようかなんて考えながら、体温の上昇を全力で抑えてAを見ると、彼女は僕の目をじっと見つめ返していた。
「……行きたいところ…」
そう小さく零した彼女の表情は、先程の沈んでいたものから、光が射したように少しだけ明るくなっている。
「そう、Aの行きたいところ。どこでもいいんだよ」
「どこでも…」
ぽつりぽつりと僕の言葉を反芻しながら、その瞳に輝きが増していく。
ああ、良かった、思っていたより、好感触のようだ。
「君の迷いや心配は僕が全て払う。
そのことに対してAは謝ったり、気を遣う必要は一切ないよ。
僕はAとどんな手間を掛けてでも2人で出掛けたいと思っているんだから。
…そう、だから、つまりこれは、
ーーーーデートの誘い、なんだけれど。
乗って、くれる?」
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白虎 - 赤司くんはやっぱりカッコイイですね〜 (7月21日 10時) (レス) id: eab1ac402f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mae | 作成日時:2022年4月19日 19時