第267話:体温 ページ31
保健室には養護教諭が1人居るのみで、幸いにも他に休んでいる生徒は居なかった。
教諭はおや、とこちらに目を向けたものの足は止めず、何やら忙しそうにぱたぱたと歩き回っている。
「先生。体調不良の生徒を連れてきたのですが奥のベッドで横にならせてもらっても構いませんか?」
「ええ、もちろん。君は付き添い?連れて来てくれてありがとうね。」
分かるなら代わりに書いてあげて、と渡されたそれにはやけに覚えがあった。
まだ記憶も新しい、保健室の利用者届けだ。
もうAの名前は一番上の紙には無かったが。
「急に体調不良?貧血かしら?」
「ええ、恐らく」
利用者届けの項目を適当に埋め、教諭の質問にもつらつらと悪びれもなく答えていく僕をAが凄い顔で見ている。
気持ちは分かるがバレるからやめてくれ。
「悪いんだけど、先生これから用事があって外に出なきゃいけないの。
貴女、体調はどのくらい悪い?
頭痛とか、熱っぽさは?吐き気とかある?」
ベッドに腰掛けながら体温計を受け取ったAが恐縮したように首を横に振り、ちょっとくらっときただけ、少し休めば治りそうだと伝える。
「そう……じゃあ、ここは好きに使ってくれていいから。誰も来なかったら出る時鍵だけ締めて職員室に返しておいてくれる?
付き添いの君は早めに授業戻りなさいね、」
鍵を机の上に置き、僕に釘をさしつつ「お大事にね」と保健室を出ていく教諭。
彼女が僕達の関係を知っているのか否かは分からなかったが、変に気を回さないでくれたのは有難かった。
ピピ、と鳴った体温計の表示する数字は36.7℃。
当たり前に平熱の範囲だが先程の昂った熱が少し残っているのだろう。
利用者届けの体温の欄にそのまま記入して、僕は立ち上がる。
「なんか赤司さんに体温把握されるの怖い…」
「なんで」
酷い言われようである。人をなんだと思ってる?
体温計は見せてくれたけど僕に渡さないのは何を警戒しているんだ?
別に大体の体温くらいは「眼」で計れるが。
「脇に暫く挟んだ物を渡すのは嫌です」
たしかに。分からないでもない。
じゃあ、まあいいか。
最近、僕がからかったりした後にはこうして冗談を返してくるような、素に近いAが見られるようになった。だいぶ気を許してはくれているんだろう、と勝手に思えば喜ばしいことである。
僕を変態扱いするなんてのは良い度胸だけど。
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白虎 - 赤司くんはやっぱりカッコイイですね〜 (7月21日 10時) (レス) id: eab1ac402f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mae | 作成日時:2022年4月19日 19時