第266話:許容量 ページ30
これ程の至近距離で「眼」を使うのは初めてだったが(それはそう)、この近さだからこそ彼女の身体の反応がよく分かる。
ドクドクと高速で身体を走る血液と、熱を集めて上昇する体温、震えながらずるずると弛緩していく身体の筋肉……
大きな黒い瞳いっぱいに溜まった涙が溢れてほろりと零れる頃、漸く彼女は全身の力を意識と共に手放した。
「…………。」
強い刺激で脳と身体の許容量を越えたのだろう。
身体を離し、頬に伝っている雫をハンカチで拭き取って、壁に凭れるように姿勢を整えてやる。
失神しているとはいえ呼吸は正常だし、徐々に熱や鼓動も戻っていっているし、体調に問題は無さそうである。
………。
……ちょっと、やり過ぎたか。?
勿論それを目指して始めたし、できるだろうとは思ってたけど、「眼」を使うという少し狡い手を使ったとは言え予想以上に上手くいってしまったので自分でも少し引いている。
本当に気絶させてしまった……。
負担を掛けた罪悪感と共に高揚感や達成感もあり、複雑な心境だ。
流石に悪かった、と思いつつ肌触りのいい黒髪を労るように撫でていると、数瞬のうちに彼女は目を開けた。
良かった、と一応安堵する。
Aはいつになくぼんやりと疲れた顔で僕を見上げる。
「きれーなおかお……」
洩れてる洩れてる。
どうもありがとう?
まだ覚醒しきらない様子の彼女を抱えあげ、保健室に行く、と告げる。授業を受けるのは厳しいだろう。
「いや……だれのせいで……」
正論だ。
まぁもともとこうなることは予想してたし(緑間の嫌そうな顔が浮かぶ)、普段はきちんと授業を受けて成績も納めている僕達のことだ、体調不良で一時間程度休むなら問題はないだろう。
僕は後で急いだ感じで教室に戻り、体調の悪い生徒を保健室に送り届けていたと言えばいい。嘘はついていない。
最近お姫様抱っこくらいでは彼女も動じなくなってきた。よしよし、だいぶ染まってきてるな。
僕の言葉に丸め込まれて混乱中の彼女に、僕も気持ち良かった、またして欲しければいつでも歓迎だと伝えたら、にやけた顔に腹を立てたらしく肩をグーではたかれた。
はは、全然痛くなくてかわいい。
これで少しはAも男にもう少し警戒するようになるだろう。今回は彼女への危害は最小限で抑えられたのだからこの辺で許してやろう。
後から襲ってきた恥ずかしさからかまだほんのりと頬の赤い彼女を保健室の前で降ろし、僕は静かに引き戸を開いた。
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白虎 - 赤司くんはやっぱりカッコイイですね〜 (7月21日 10時) (レス) id: eab1ac402f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mae | 作成日時:2022年4月19日 19時