第九十九話 ページ50
「ほら」
一言。数えて二文字。
それだけを言って、先生はしゃがみこんでしまった。そして背中を私に向けて、首だけをこちらに向けて何かを伝えようとしてくる。
だけどそんな一言、二文字だけでは彼の真意はわからない。
首をかしげる私に、次の瞬間先生は体中を駆け抜ける雷のような衝撃を与えた。
「早く乗れよ」
「いっ嫌です!」
考える暇も、その必要もない。
確かに私はそこらじゅうの、スターだのアイドルだのの雑誌を見て騒いだり、どこのメイクブランドのコスパがいいとか、化粧の乗りがなんだとか、ファッションが何だとかを語れるほど女子力は高くない。だけど体重は、どんな女子でも気になってしまうものではないだろうか。
特に男性相手だと。
「我侭言うな。 早くほかのやつらと合流しなきゃいけないだろ」
「あ、歩けます!」
「嘘つけ」
「嘘じゃないです、歩け――いった!」
「バッカかお前」
今日の先生は特別口が悪い。一日だけで何回馬鹿と罵られたのか、カウントが追いつかないくらいだ。
そら見ろ歩けるぞとばかりに足を振り回してみたけどやっぱり歩くのは無理そうだ。……やむを得ないのだろうか。
でも、それでも、やっぱりすごく抵抗がある。
「……私体重60もありますよ」
「その体で60は嘘だろうが、たとえ60でもお前の身長じゃ健康体重だろうよ」
「……嘘でした、1トンあります」
「象かお前は。いいから乗れ」
上ではきっと他の先生が心配してる。
私のせいでこのオリエンテーションは中止になって、生徒たちは一箇所に集まって口々に文句を言っているはず。
だから私にはとやかく言う資格などないのだ。おとなしく、そうおとなしく従うほかないのだ。
口をへの形にきつく結び、私は足を引きずりながら先生の元へ歩む。
先生のその腕が作る隙間に両足をおさめて、そっと肩に手を当てた。
「しがみついてろ。 じゃないと落ちるぞ」
「……はぁい」
つくづく乙女心がわからない男だ。
自分の体を押し付けるようにしてその大きな背中にしがみつく。腕は、そっと先生の首の周りを囲った。
「いくぞ」
太ももに圧迫感を感じて、自分の体が固定される感覚を覚えた。
視界がぶれて、小さく息を吸って知らずのうちに腕に力を込めてしまう。浮遊感に内臓がひっくり返ったような不快感。
ついに私は全体重を先生に預けることとなった。
「重いなーお前」
「今すぐおろしてください!!」
「はは、冗談だよ。 1トンより全然軽いぞ」
「……それ、気休めですらない」
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ayakaさん» Rの要素ございました? (2020年6月25日 14時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
ayaka - [R]つけてください (2020年6月24日 20時) (レス) id: 6bf9ec98ce (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ゆうきさん» あぁああうれしいです!全力できゅんっと来るような描写をさせていただきます…無駄に多く長い小説をすべて読んでいただき感激のあまり…いや本当に感激です!(語彙力が足りない)ありがとうございます、頑張らせていただきます!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - いか糖さん» 本当に長くなりそうなので飽きないって言ってくださってうれしいです……!ワンパターン・テンプレばかりの小説だというのにそんなことを言って下さるなんて…!頑張ります!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - コメント失礼します!先生かっこよすぎませんか!?一話から続けて読んでいますが、先生の一つ一つの動作にキュンキュンさせられてます!こんな先生本当にいたらいいのにな…更新がんばってください!楽しみにしています! (2017年6月11日 15時) (レス) id: 6c9139a3b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2014年11月14日 20時