【2】サド教師とツンデレ生徒【名前変換オリジナル】

第九十八話 ページ49

「立てないか？」
「ちょっと……足のほうが……」
「うわっ、やばいなこれ……早いとこ処置してもらわないと化膿するかもしれねぇな」
「いづっ……」

先生の親指が傷のふちに触れる。それだけで焼けるような痛みが走って私は体を震わせながら悲鳴をあげた。
小さく「悪い」の謝罪を口にしつつ、先生は私の傷口から目を離さない。
肉が結構深く裂けているのだ。本当にやばい。長時間凝視してたら吐き気がしそうなほどに。

「お母さんに死ぬほど怒られる……」
「おう怒られろ怒られろ。 死ぬほど怒られてこい。 んで反省しろバカ」
「してますもん……」
「これ痕残るぞバカ。 嫁入り前だろバカ」
「めっちゃバカバカ言う！」

なんだこの人、と頬を膨らませると、いつも通りの悪戯っぽい笑みを浮かべて悪い悪い、と思ってなさそうな声音で謝ってくる。
あんなに暗かったはずの木陰はいつの間にか太陽の光が差していて、何だろう天候ですらこの人の味方になってしまうのかと首を傾げた。

「ほら、腕貸せ」

そういって差し出されたうっすらと青筋の浮かんだ男らしい太い腕。
その手のひらは私より一回りも二回りも上で、彼の手のひらの上に私の手を重ねると彼はぎゅうと私の手を握りしめる。
瞬時に恥ずかしさが全身を駆け巡るが、それと同時に私の手を丸ごと包み込めるその手の大きさに驚いてしまう。

「踏ん張れよ」
「へ――……っい゛っ！」

急に引力を感じて体が引き起こされる。
いきなり引っ張られた腕の筋はもちろん痛むし、急に振動を与えられた体中の傷口が悲鳴をあげた。
あまりにも多くの痛みに力が抜けてしまい、よろけふらつく私を先生は空いていた手で抱き留める。

「大丈夫か？」

近すぎるその声に反応する余裕すらなく、肩で息をする私は全身で大丈夫じゃない旨を伝えたい。痛すぎて声も出ない。悲鳴すらも出ていない。あえぐように呼吸をしているだけだ。
それを先生も理解しているのだろう、気休めのように私が落ち着くまで私の背中を先ほどみたいに撫で続けた。

「悪いな、あんまりこの湿った土の上に座り込んでると傷口に雑菌が入ると思って」
「り、りろんは、わかりますけど、せめてひと、ことくらい、なかったんですか……」
「そうだな、次からはそうする」

けろりと何でもないように言う先生に殺意がわく。
いまだにちゃんと立つことができずに先生の体に寄りかかっていて傍から見たら抱きしめあう恋人のよう。
痛みがひどすぎて照れることもままならない。

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