43話 ページ43
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「玄弥、入るぞォ。」
「に、兄ちゃん…」
玄弥から了承を取る前にガチャリと部屋に入って来たのは兄の実弥。
実弥が部屋に入って一番に見たものは、泣き腫らした弟の顔。
「あ、兄ちゃん…これは違くて…」
「…竈門か?」
玄弥は図星を疲れたように肩を揺らした。
勿論今の竈門は姉の方の竈門のこと。
実弥はずっと前から気づいていた。
玄弥がAに想いを寄せていることに。
そして彼女に弟への恋情がないことに。
いつもブラコンな弟に手を焼いている彼女を見つめる弟の視線は熱を帯びていた。実弥はずっとずっとわかってた。
でも、自分ではどうすることもできない。
実弥は玄弥の座っているベッドに自分も腰掛けた。そして恐る恐る、玄弥の頭を撫でてやった。
「…伝えたんだろォ?」
「…うん。」
「…後悔、してないか?」
「してないよ。言えて、びっくりするくらいすっきりしてる。」
玄弥は涙の跡が残る頬をゴシゴシと擦った。
本心なんだ。すっきりしたことは。
でも、でも。
「…嘘、ついた…」
貴方のことを愛していま“した”なんて嘘。
本当は今もずっと想ってる。
でも、勇気がなかった。
この気持ちを伝える勇気が。
過去形ならきっとあいつも後ろ髪引かれるような思いをしなくて済むと思った。だから敢えて過去形の言葉を選んだんだ。
でも、でも。もし、もしも。
今も現在進行形で好きだと伝えたら、何か変わったのだろうか。
…いや、きっと何も変わらない。だってあいつは、Aは。
俺のことをそういう目では見ていなかったから。
「…玄弥なりの優しい嘘、だったんだろォ?」
玄弥の顔が見えないように実弥はぽんぽんと背中を叩いてやった。
止まったはずの涙がまた堰を切ったように溢れてくる。
うん、うん…これは、優しい嘘だったよ。
「…っうん……っ」
優しい優しい、嘘だったよ。
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とく(プロフ) - すごくいいお話でした…。涙が出るほど(笑) (7月19日 12時) (レス) id: 72e740ca3a (このIDを非表示/違反報告)
えむえいか - 貴方様は、神ですか? (2022年5月20日 16時) (レス) @page5 id: 6c61bb4c69 (このIDを非表示/違反報告)
孤 - 神作……… (2022年5月9日 15時) (レス) @page44 id: af8576bbe7 (このIDを非表示/違反報告)
ふぐひらめ - たまに………たまに原作を思い出すような描写があって……目から汗が……… (2021年12月5日 7時) (レス) @page50 id: f76242864c (このIDを非表示/違反報告)
夏鈴 - 炭治郎のシスコン具合がめっちゃ良かったです‼︎無一郎と有一郎がでて来るとか最高すぎます‼︎とっても良い作品ありがとうございますー! (2021年11月21日 22時) (レス) @page50 id: 378955c846 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白霞 | 作成日時:2020年6月13日 19時