二百三十二 桜の雨 ページ32
「私が幼い頃に受けた無差別ないじめなんてちっぽけなのかも知れない。だけど、ずっとずっと怖くて仲のいいふりをして心の中では疑っていたんです。誰も信じられない、怖いという気持ちは良くわかります。それでも心の奥底では誰かを信じたいと、大切な人の1番になりたいとそう思っていました。それに気づいたのは、オロチさんがいたからでした。誰だって一人では生きていけないんです。誰かを信用していたいんです。私たちには感情があるから、過ちだってあります。でもそれは全て生きている事実があるからこそ起こることなんです。黒雨……いや、滝雨さん。私は黒魔ではなく"妖怪として"のあなたに聞いて欲しいことがあります」
私は蹲る滝雨さんの腕をしっかりと掴んだ。
淀んだ瞳を真っ直ぐにとらえ、意志をかためる。
「滝雨さん、私とお友だちになって下さい──……」
その瞬間、淀んだ瞳に綺麗な光が射し込んだ。
「どう、して……?俺は君のことを……」
「きっと一生許せないと思う。でもそれは黒雨がしたことだから……。死んでしまったことは悲しいけれどあなたは一瞬でも私を信じてここまで来てくれたから、私はそんなあなたを信じてみたいの」
雨がやみ、代わりに桜の花びらの雨が妖魔界にふった。
「何かしたら見合ったものが貰える……?」
「何もしなくていい、何もいらないよ。あなたが欲しかったものは対価で貰えるものではないもの」
泣きわめく滝雨さんを強く抱きしめた。
桜の花びらが滝雨さんの体にまとわりついていく。
「──苦しい」
滝雨さんは弱々しい力で私の肩を押し出した。
浄化された肌は陶器のようで、赤かった目は綺麗な青色だった。
目の色とお揃いの青色の着物に変わっていた。
背の割には少し幼い顔をしていた。
「黒魔が妖怪に戻ったというの……?それにこの桜の雨は──」
すっかり晴れ間が渡ると黒狼を追いかけていったオロチさんが戻ってきた。
「あいつは自分が有利でないと仕掛けてこないよ……」
「オロチさん、黒魔になった妖怪は……」
「ここだ」
ぬらりひょんさんが高台の下からこちらを見上げた。
隣には小さな檻があった。
オロチさんが私を抱え、下に降り立った。
檻の中には黒魔が私に掴みかかろうと鉄格子の中から手を伸ばす。
妖怪が黒魔になる瞬間を初めてみた。
こんなことはあってはいけないことだ。
私は両手にいっぱいになった桜の花びらを吹き、檻ごと包み込んだ。
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剣城京菜(プロフ) - aruya100さん» ありがとうございます!!頑張ります!! (2019年2月8日 9時) (レス) id: 6021a386db (このIDを非表示/違反報告)
aruya100(プロフ) - いつも見させていただいてます。更新頑張ってください!期待してます! (2019年2月4日 23時) (レス) id: b60ccdc28b (このIDを非表示/違反報告)
剣城京菜(プロフ) - yukiさん» ありがとうございます!!頑張ります!! (2019年1月30日 19時) (レス) id: 6021a386db (このIDを非表示/違反報告)
yuki - 作品楽しませていただいてます。続き頑張って下さい! (2019年1月30日 8時) (レス) id: 01053ecf80 (このIDを非表示/違反報告)
紅桜(プロフ) - 剣城京菜さん» 頑張ります...! (2019年1月23日 19時) (レス) id: 84fb339dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:剣城京菜 | 作成日時:2019年1月21日 21時