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陵side
「…いけ、ます」
ちょっとだけ楽になったような気がして、体を起こす。
石谷先生が俺を見て、困ったように眉を下げた。
「ごめんね、私じゃ陵君運べない…。歩ける?」
「だいじょうぶ、です」
熱でぼーっとした頭でもわかる。歩けなくても、歩かなくちゃいけないのだ。
体の表面は熱いのに、芯は寒い。
車のドアをゆっくり開けて、力の入らない足を無理やりに踏ん張って、倒れたりしないように気をつけながら車から降りる。
すぐに石谷先生が肩を支えてくれて、それだけでさっきより立っているのがだいぶ楽になった。
ぐにゃぐにゃと柔らかい、スポンジみたいな駐車場のコンクリートの上を、ゆっくり歩く。
今の俺なら、亀と良い勝負が出来るかもしれない。
熱を逃がそうと小さく息をつけば、しんどいね、と石谷先生が顔を曇らせた。
のろのろと歩いて院内に入ると、中は思ってた以上に混んでいる。
一応座るところはあるものの、背もたれがない椅子しか空いていないようだ。
「…陵君、座ってられる?」
心配そうに、石谷先生に顔をのぞきこまれる。
俺は小さく頷いた。大丈夫、立ってるよりもずっと楽だ。
「じゃあ先に座っててね。私受付してくるから」
いつの間にか先生は俺のカバンを手に持っている。保険証はあの中だから、ちゃんと見つけてくれていたのだろう。
受付へと歩いて行った先生と別れて、空いていた近くの背もたれのない椅子に腰かける。
…もたれられない、というのは、思った以上にしんどい。
早々に辛くなってきた俺は前かがみになって膝に頭を乗っけた。このほうが、らく。
「陵君、こっちもたれてていいから熱計ろう?」
しばらくそうやって目を閉じていると、戻ってきた石谷先生に体を軽く叩かれた。
渋々体を起こし、遠慮なく先生にもたれかかる。
「熱いね…」
答える気力なんて、もう残っていない。
黙って体温計を脇に挟んで、また目を閉じる。
「…ねたい、」
思わずぽろりと、そう呟いていた。
ここは病院。寝れるわけないと、わかっている。
それでもしんどさから弱音が漏れて、俺は思わず目を開いた。こんなの、俺らしくない。
「うん、そうだよね。泣かないで陵君。泣くともっとしんどくなっちゃうよ」
優しく微笑んだ先生が、子どもをあやすようにそう声をかけてくる。
泣いてなんかいないはずなのに、なぜか頬をぬるいものが伝った。
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暁☆(プロフ) - ayahanaさん» こちらこそいつも優しいコメントありがとうございます! おかげでまだまだ続けられそうです (*´ `*) ぜひ今後ともよろしくお願い致します〜! (2021年2月13日 9時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
ayahana(プロフ) - 更新ありがとうございます!まだ続けて下さるどころか頻度上がるかもということで凄く嬉しいです、次のお話も楽しみにしています! (2021年2月13日 0時) (レス) id: a867efffe4 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - ayahanaさん» お待たせして申し訳ありません!こちらこそ読んでくださりありがとうございます〜<(_ _)> (2020年8月20日 7時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
ayahana(プロフ) - 更新ありがとうございます! (2020年8月20日 0時) (レス) id: a867efffe4 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - りんごさん» ありがとうございます!頑張りますね! (2020年6月23日 20時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2018年6月15日 20時