第99話 転がされてる自分 ページ6
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草川拓弥の微笑み。でも、それは次第に曇り始めた。
「…俺さ、近々ここを退院するつもりなんだ」
そう言いながら、草川拓弥は前を向く。そして、ゆったりとした足取りで歩き出した。
「な、なんで…」
呆然と立ち尽くす私。草川拓弥の背中を追いかけられない。
「…ちょっと色々あって。それに、会社の方を手伝わないといけなくなったから」
草川拓弥は、前を見たまま私にそう答える。
どんどん開いていく、距離。少し遠くに、草川拓弥の背中がある。
「…前に−自分の気持ちを考えるのも大切なことですよ、って俺に言ってくれたことあるよな」
ずいぶん前に交わした、草川拓弥との会話が脳裏をよぎる。
「あの言葉を聞いた時、実は嬉しくて。
俺も自分の意見を言って良いんだ、って。俺も自分のしたいように過ごせば良いんだ、って思った」
ぽつりぽつり話す草川拓弥。
「だけど、現実は違くて。俺は−俺たちは、結局は単なる道具でしかないんだなって。
誰かの目的を達成させるための、単なる道具にしかなれないんだって気が付いた。
あがいたところで、結局は誰かの手のひらの上で転がされてる。
そして、転がされてることに気がつかないまま全てが終わるんだ」
ぶわっと強い風が吹く。突風のせいか、ぶるっと体が震えた。
「…その通りだよ、拓弥」
そう言いながら現れたのは、制服に身を包んでいる船津稜雅。
「結局は何かに転がされてる。−拓弥の場合、会社−の存在かな?」
船津稜雅は草川拓弥を見据えたまま、ゆっくりと歩み寄る。
「びっくりしたよ。まさか、拓弥の会社が倒産寸前になるなんて」
倒…産?
驚きを隠せない私を置いてけぼりのまま、船津稜雅は言葉を続ける。
「なんでも、新薬−のレシピを盗用したとか」
草川拓弥は何も答えず、ただ黙って船津稜雅の顔を見た。対して、船津稜雅は嘲笑うかのように微笑んでいた。
「A、行こう。拓弥はこれから荷造りがあるみたいだ」
そう言いながら私の肩を抱く船津稜雅。私は、半ば連れられるようなかたちでその場を離れた。
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桜月(プロフ) - うめこんぶさん» わわ!ご指摘ありがとうございます(;´Д`A 引き続き、良い小説が書けるよう頑張ります!よろしくお願いします!d( ̄  ̄) (2018年12月23日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
うめこんぶ(プロフ) - 更新ありがとうございます!126話と127話が抜けてると思いました。これからも楽しみにしています! (2018年12月23日 1時) (レス) id: 0ab6ffd78b (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ぱにぱにこちゃんさん» コメントありがとうございます・:*+.\(( °ω° ))/.:+ ゆるゆるっとですが、更新しますのでぜひ!よろしくお願いいたします♪ (2018年12月1日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
ぱにぱにこちゃん(プロフ) - 更新待ってますっ! (2018年6月17日 7時) (レス) id: e09c37547f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SORA | 作者ホームページ:https://twitter.com/SORA_39xx
作成日時:2018年5月29日 19時