第98話 真実につながる鍵 ページ5
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「うわー!遅刻だー!」
爽やかな朝。とは、程遠い今朝。
壁掛け時計に目を向ければ、もうすでに部屋を出る時間は過ぎていた。
大急ぎで身支度を整え、小笠原さんがいるであろう部屋のドアをノックする。
ノックをしても返事がない。私は、一声かけてからドアを開けた。
朝陽が差し込むシンプルな部屋。
ドアのすぐ近くにある机に目を向ければ、置き手紙がある。私は置き手紙を取った。
「(所用があるので、しばらく席を外します…。ご飯は冷蔵庫の中に入っていますので、必ず食べてくださいね)」
綺麗な字で書かれた小笠原さんの文字。私は特に気にも留めず、静かに部屋を出た。
*
「お前、制服着てどこに行くつもりだよ」
寮を出た私に声をかけたのは、ベンチに腰掛けている草川拓弥。私服姿に身を包んでおり、私は思わず目を見開く。
「今日、開院記念日だから授業はないよ」
草川拓弥はそう言いながらベンチから立ち上がり、私の方へ歩み寄った。
「な、なんでステラ寮に…」
驚く私を見る草川拓弥。
「お前に、ちょっと言いたいことがあって」
草川拓弥はそれだけ言うと、スキニーのポケットに手を入れて歩き出す。私は、草川拓弥の後ろに着いて行った。
静かな通りを歩く私と草川拓弥。とても心地よい。
「…お前は、まだ俺のことをカンニングを仕込んだ奴、って思ってる?」
唐突すぎる質問。だけど、私の答えはある程度固まっていた。
「…仕込んでない、と思い始めてます」
今思えば、草川拓弥という男が卑怯な真似をするはずがない。草川拓弥は、自分にも周りにも正直な男だ。
「…草川さんって、いつも俺にズバズバ言いますし。考えれば、ストレートな人がそんな回りくどいことはしないかなって…」
それに、教室で予習をしている姿も見る。そんな優等生がカンニングを仕込む、なんてリスクの高いことをするはずがない。
「(小笠原さんの言う通りだ)」
−「心証や主観で物事を決めては、自分の心が貧しくなる」
あの時の私は、ついカッとなって…。真実につながる鍵をいくつも見落としてた。
それなら…私の机にカンニングペーパーを仕込んだのは誰?そして、草川拓弥が写っていたあの写真はどうなる?
「(そうだ、写真!)」
もう一度、あの写真をよく観察しよう。もしかしたら、真犯人の手がかりが見つかるかもしれない。
「その返事が聞けて良かったよ」
草川拓弥は小さく笑みを漏らすと、私の方を見る。それは、初めて見た草川拓弥の笑顔だった。
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桜月(プロフ) - うめこんぶさん» わわ!ご指摘ありがとうございます(;´Д`A 引き続き、良い小説が書けるよう頑張ります!よろしくお願いします!d( ̄  ̄) (2018年12月23日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
うめこんぶ(プロフ) - 更新ありがとうございます!126話と127話が抜けてると思いました。これからも楽しみにしています! (2018年12月23日 1時) (レス) id: 0ab6ffd78b (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ぱにぱにこちゃんさん» コメントありがとうございます・:*+.\(( °ω° ))/.:+ ゆるゆるっとですが、更新しますのでぜひ!よろしくお願いいたします♪ (2018年12月1日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
ぱにぱにこちゃん(プロフ) - 更新待ってますっ! (2018年6月17日 7時) (レス) id: e09c37547f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SORA | 作者ホームページ:https://twitter.com/SORA_39xx
作成日時:2018年5月29日 19時