第121話 後悔、先に立たず ページ28
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「良かった…。何もされてなくて…」
久々に聞いた、海さんの砕けた口調。海さんは言い終えると、私から離れる。そして、生卵をぶつけられた私の髪の毛や顔をそっと親指で撫でた。
刹那、ひどく顔を歪めた海さん。眉根を寄せたあと、私の目を見た。
「ひどい…。顔の傷…」
まだ若干の痕は残っているものの、私の顔の傷はそこまで目立たない。…多少の色素沈着はしているけど。
「大丈夫です。ありがとうございます」
海さんが心配してくれたのが純粋に嬉しくて。私は、自然と笑顔を向けた。
「じゃあ…もう行きますね。午後の授業が始まっちゃう」
ジャケットのお礼を付け加えて、私は海さんの横を通り過ぎる。
聞けば良かった。今朝のこと−。
船津稜雅のときとは違う、気持ちまで暖かくなる心臓音が少し心地良かった。
*
午後は海さんのジャケットを着て過ごし、いまは–下校–の時間。
バッグの中へ教材を詰めている私を、佑亮くんは手を止めながら見ていた。
「そのジャケット…海さんの?」
「えっ?うん!」
おずおずと口を開いた佑亮くん。私は、突然声をかけられたことに驚きつつ、言葉を返した。
「そっかあ…」
そう言いながら、やけにしょんぼりした様子で自分の手元を見る佑亮くん。
「僕も、海さんみたいに–Aくんにジャケット貸せば良かったなあ…」
「それは佑亮くんに悪いから平気だよ!その気持ちだけで充分!」
落ち込んでいる様子の佑亮くんを励まそうと、私は至極明るく努めて話す。
佑亮くんのジャケットを借りたら、色んな人から驚かれそうだし…。佑亮くんには、そんな思いをして欲しくない。
「じゃあ、もう行くね!自分のジャケット、クリーニングに出さないと」
佑亮くんに手を振りながら、自分の席を立つ私。
「あっ、待っ–」
そう言いながら、佑亮くんは私の腕を引く。その瞬間、足がもつれてしまい、教室の床に2人して倒れ込んだ。
佑亮くんの左手が私の後頭部に回っていたおかげか、幸い頭を打たなかった。
「ごっ、ごめん…。ケガしてない?」
そう言いながら、至近距離で私を見つめる佑亮くん。ぱっちりした目が、とても可愛い。
「うん。佑亮くんのおかげで、俺の頭は無事だよ」
そう言いながら、立ち上がろうと自分の身をよじったとき–顔に、熱くて冷たい何かが当たった。
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桜月(プロフ) - うめこんぶさん» わわ!ご指摘ありがとうございます(;´Д`A 引き続き、良い小説が書けるよう頑張ります!よろしくお願いします!d( ̄  ̄) (2018年12月23日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
うめこんぶ(プロフ) - 更新ありがとうございます!126話と127話が抜けてると思いました。これからも楽しみにしています! (2018年12月23日 1時) (レス) id: 0ab6ffd78b (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ぱにぱにこちゃんさん» コメントありがとうございます・:*+.\(( °ω° ))/.:+ ゆるゆるっとですが、更新しますのでぜひ!よろしくお願いいたします♪ (2018年12月1日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
ぱにぱにこちゃん(プロフ) - 更新待ってますっ! (2018年6月17日 7時) (レス) id: e09c37547f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SORA | 作者ホームページ:https://twitter.com/SORA_39xx
作成日時:2018年5月29日 19時