第120話 反比例してく情景 ページ27
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「(本当にまずい…!)」
船津稜雅から目を背け、私は濡れたままのブレザーを手に取る。そして、まるで自分の胸を隠すように、ブレザーを前に持った。
「あぁ、A。こんなところで、何をしてるの?」
やけに楽しそうな声。船津稜雅は、靴音を響かせながら私の背後に近付く。
「ぶ、ブレザーが汚れたから…軽く洗い落としてて…」
蚊の鳴くような小さな声。まるで反比例するように、船津稜雅の靴音が大きくなる。
私は、それ以上近付いて欲しくないと心から願った。
「ブレザーが汚れた時は、こうして洗えば良い」
すぐ後ろから聞こえた、船津稜雅の声。そして、私の持っているブレザーを取ると、それを水場に漬けた。
「ここをこうして–」
と言いながら、私の背中にぴったりくっつく船津稜雅の胸板。耳元には低い声が響く。私の手を取ると、自分の手を重ね合わせつつブレザーの汚れを落としてくれた。
「(バレてませんように…!)」
そう願いながら、私はバクバクと嫌な緊張を胸の中に残す。
その間でも、船津稜雅は優しく私のブレザーを洗ってくれた。
「…心臓の音が、やけにうるさいな。大丈夫、同性には興味ないから」
船津稜雅のそのセリフに、胸をなで下ろす。様子を聞く限りだと、バレていないらしい。
「でも、もしAが女の子なら–興味はある」
そう言いながら、私の指に自分の指を絡めてきた船津稜雅。そして、スーッと細い指が手首の方へ伸びていく。
「女の子みたいな…細い手首だね」
その所作一つ一つに、私の心音がひどくうるさくなっていった。ドキドキしすぎるあまり、立ちくらみを起こしそうになる。
「…稜雅さま」
そんな中、私の心臓がまた大きく脈打つ。声の主は、海さんだった。
「お時間です。早く向かいましょう」
「あぁ、もうそんな時間か。…また後で、A」
船津稜雅はそう言うと、海さんを置いて先に進んで行く。
「(た、助かった…)」
ほっと胸をなで下ろす私。海さんは、そんな私をちらりと一瞥した。
「…どうぞ」
そう言いながら、自分が羽織っていたジャケットを差し出す。
「えっ…」
「…使ってください。そのままでは、校内を歩けないでしょう」
おずおずと、ジャケットを取ろうと腕を伸ばす私。私の指が海さんのジャケットに触れた瞬間、器用に私の腕を引いた。
海さんの優しい香りとぬくもりがダイレクトに伝わる。訳が分からず、私は海さんの顔を下から覗き見た。
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桜月(プロフ) - うめこんぶさん» わわ!ご指摘ありがとうございます(;´Д`A 引き続き、良い小説が書けるよう頑張ります!よろしくお願いします!d( ̄  ̄) (2018年12月23日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
うめこんぶ(プロフ) - 更新ありがとうございます!126話と127話が抜けてると思いました。これからも楽しみにしています! (2018年12月23日 1時) (レス) id: 0ab6ffd78b (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ぱにぱにこちゃんさん» コメントありがとうございます・:*+.\(( °ω° ))/.:+ ゆるゆるっとですが、更新しますのでぜひ!よろしくお願いいたします♪ (2018年12月1日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
ぱにぱにこちゃん(プロフ) - 更新待ってますっ! (2018年6月17日 7時) (レス) id: e09c37547f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SORA | 作者ホームページ:https://twitter.com/SORA_39xx
作成日時:2018年5月29日 19時