第110話 絶望と希望の重ね ページ17
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最悪な状況。
それでも、絶望感がないのはこの人のおかげだろうか。
*
私は佑亮くんの部屋を出たあと、花畑の中にある噴水の近くまで来た。
夕焼け空が噴水に反射して、サラサラと滞りなく流れる水音が心地良い。
ぼんやりしながら、噴水の淵に腰かける。
静かな空間。私を指さす声が一切聞こえない。
ここにいるのは、私1人だけ。
その孤独感が、私をひどく痛めつける。
私は-小笠原さんにずっと頼りっぱなしだった。何から何まで。小笠原さんは、私の面倒を見てくれた。
だけど、今はいない。
カンニング疑惑の件で、拓弥との勝負も無くなった。そして、「私」である必要も。
「…」
途端に、自分の存在意義が分からなくなった。両親がいなくなったあの日のような感覚に陥る。
ひどく不安で、情けなくて。誰かにすがりたい。
震える指先を抑えて、この孤独に耐えるので私は精一杯だった。
「寒いやろ?」
そんな声が頭の方から降ってきた。顔を上げれば、目の前には湯気の出ているおしるこを手にしている晃一の姿。
「あっ、うん…。寒くて、手の震えが…」
取り繕うように私は言った。震える指先をさりげなく隠して。
「ほれ、飲みかけやけど…。飲むか?ちょっとはあったまるで」
そう言いながら、私の横に腰かける晃一。手渡されたおしるこの缶が温かい。
「にしても、この時間はちょっと冷えるよな〜。サブイボが立ってまう」
凍えるジェスチャーをしつつ、私の方へさわやかな笑顔を向けた晃一。その挙動がおかしくて、私は小さく声を漏らして笑った。
「あっ、せっかくやし…。今ここで歌ってもええ?ちょっと練習してる曲があんねん」
私の返答を待たずに、晃一は噴水の縁から降りると私の前に立つ。そして、大きく息を吸い込んだ。
水のように透き通る綺麗な歌声。それでいて、力強いメロディー。
晃一の歌う賛美歌が、あたりに響き渡る。荘厳な英詞がマッチして、まるで希望の光が差すよう。
晃一の伸びやかな声が、ゆっくりとフェードアウトしていく。
サラサラと響く水音が、小さな拍手のような音にも聞こえてきた。私は、ぱちぱちと拍手を送る。
晃一は、少し照れくさそうに満足したような表情を浮かべていた。
「まだ、ここまでしか歌えんけど…どうだった?」
「…すごく、良かった。本当に、すごく…。心に響いた」
今の私の語彙力じゃ、これくらいしか言えない。でも、言葉に詰まるほど、晃一の歌声は心に響いていた。
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桜月(プロフ) - うめこんぶさん» わわ!ご指摘ありがとうございます(;´Д`A 引き続き、良い小説が書けるよう頑張ります!よろしくお願いします!d( ̄  ̄) (2018年12月23日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
うめこんぶ(プロフ) - 更新ありがとうございます!126話と127話が抜けてると思いました。これからも楽しみにしています! (2018年12月23日 1時) (レス) id: 0ab6ffd78b (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ぱにぱにこちゃんさん» コメントありがとうございます・:*+.\(( °ω° ))/.:+ ゆるゆるっとですが、更新しますのでぜひ!よろしくお願いいたします♪ (2018年12月1日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
ぱにぱにこちゃん(プロフ) - 更新待ってますっ! (2018年6月17日 7時) (レス) id: e09c37547f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SORA | 作者ホームページ:https://twitter.com/SORA_39xx
作成日時:2018年5月29日 19時