第109話 裏目に出たが尽き ページ16
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辿り着いた先は、佑亮くんの部屋だった。
「えっと…飲み物とか、持ってくるね!」
佑亮くんはそう言いながら、慌ただしく用意を始める。その間、私は口を押さえて落ち着くので精一杯だった。
テーブルに水の入ったグラスと錠剤、そして箱ティッシュを置いた佑亮くん。
「お水、飲める?」
そう言いながら、私にグラス一杯に注がれた水を手渡す。
私はグラスを受け取り、ぐっと飲んだ。
水を飲んだおかげか、佑亮くんの柔らかい笑顔のおかげか。私はいくらか落ち着きを取り戻すことができた。
半分以上減ったグラスをテーブルに置き戻し、小さく息を吐く。
「ありがとう、落ち着いた」
そう言った私の台詞に、安堵の顔を浮かべる佑亮くん。私は、グラスの脇に置かれていた錠剤にちらりと目を向けた。
「あっ、これ頭痛薬だ…。間違えちゃった」
えへへへと笑いながら、佑亮くんは錠剤をポケットの中に入れる。
「鎮静剤あったと思うんだけど…必要なさそうだね。落ち着いたみたいだし」
佑亮くんはそう言いながら、タンスの上にある箱の中に錠剤を戻す。その時、他にも色々な錠剤があることに気が付いた。
「(…種類の違う錠剤がたくさん…)」
いつも元気な佑亮くんが、あんなにもたくさんの薬を手元に置くなんて。少し疑問に思った。
「あっ、そうだ!実は午後に、小笠原さんが教室に来たんだよ!Aくんのこと探してたんだけど…あの後会えた?」
小笠原さん。その名前を聞くだけで、さっきとは違った胸の高鳴りを感じる。
「…うん、ちょっとだけ」
自分で答えた言葉に、思わず涙腺が緩みそうになる。
なんだか、この先もう二度と会えないような気がして。追いかけても追いかけても、小笠原さんはどこにもいなかった。
もしあれが最後の別れだとしたら…と思うと、どうしても納得できない。
こんなことを考えてしまう私は、ワガママなのだろうか。
*
バリバリと響くヘリコプターの音。黒いスーツを着た男たちは、船津様を迎え入れた。
「海。お前も一緒に来い」
本人も言っていた通り、俺をA様と接触させないようにしているのだろうか。だけど、ここでこの人に従わなければ…俺はこの学院に足を踏み入れることはできない。
予定していた計画が裏目に出てしまった。
「かしこまりました」
ヘリコプターの音が、自分の声を隠す。
あぁ。人生、どうあがいたってなかなか思い通りにはいかない。
俺は、A様がプレゼントしてくれたタイピンに目を向けた。
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桜月(プロフ) - うめこんぶさん» わわ!ご指摘ありがとうございます(;´Д`A 引き続き、良い小説が書けるよう頑張ります!よろしくお願いします!d( ̄  ̄) (2018年12月23日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
うめこんぶ(プロフ) - 更新ありがとうございます!126話と127話が抜けてると思いました。これからも楽しみにしています! (2018年12月23日 1時) (レス) id: 0ab6ffd78b (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ぱにぱにこちゃんさん» コメントありがとうございます・:*+.\(( °ω° ))/.:+ ゆるゆるっとですが、更新しますのでぜひ!よろしくお願いいたします♪ (2018年12月1日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
ぱにぱにこちゃん(プロフ) - 更新待ってますっ! (2018年6月17日 7時) (レス) id: e09c37547f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SORA | 作者ホームページ:https://twitter.com/SORA_39xx
作成日時:2018年5月29日 19時