検索窓
今日:26 hit、昨日:19 hit、合計:32,789 hit

第108話 飲むしかない条件 ページ15

.

パタン、と静かに閉ざされた重たいドア。目をつぶれば、泣きそうな目をしていたA様の表情が頭の中に浮かぶ。

小さく息を吐き、こっそり出ようとする小笠原海。まるで行く手を阻むように、小笠原海の前に小さな影が落ちた。

「待ってたよ」

顔をあげれば、目の前には壁に凭れて立っている稜雅がいる。

俺は、内心小さなため息をついた。

「…船津様」

小さく声をかけ、俺は胸に手を当ててお辞儀をした。

「どうだった?Aと−最後の逢瀬は」

最後。その言葉が、深く胸に突き刺さる。
胸に当てていた手を、俺は静かに握りしめた。

「…特に」

それだけ答え、俺は静かに頭を上げる。
ズキズキと痛む胸を隠すのに、精一杯だった。

「…屋上へ参りましょう。会長が、もうじきお見えになります」
「もうそんな時間か」

先を歩き出す稜雅の背中を見つめる俺。

「(ペナルティとして、俺はAから稜雅の元へつくことになってしまった)」

ふと、ついさっき起こった出来事が思い浮かぶ。

懲罰房から綺麗な部屋に通された時。

《俺の言うことを聞くと約束するなら、最後にAに会わせてやる。加えて、執事資格剥奪も無しだ》

稜雅はそう言って、俺に条件を突き出した。
断る理由なんて、どこにもない。

俺の中で、稜雅の言っていた「今のAの姿」というセリフが妙に引っかかっている。
一目で良いから、A様の姿を見たい。そう、遠目でも良いから−。

《…かしこまりました》

懲罰房に閉じ込められて過ごすより、外に出て−稜雅と一緒に行動していれば、いつの日かA様に会える機会があるかもしれない。
喋れなくても良い。元気に過ごしている姿さえ見られれば、それで良い。

バリバリバリと聞こえる羽音に、強い風が俺の意識を一気に現実へ引き戻す。
ぼーっとしていたのを誤魔化すように、俺は稜雅へ声をかけた。

「…到着、されましたね」
「そうだな」

ヘリポートの上に、立派なヘリコプターが到着する。ドアが開かれ、中から黒いスーツを身にまとった男たちが数人出て来た。

第109話 裏目に出たが尽き→←第107話 助けてくれた人は



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (56 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
179人がお気に入り
設定タグ:超特急 , 男装
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

桜月(プロフ) - うめこんぶさん» わわ!ご指摘ありがとうございます(;´Д`A 引き続き、良い小説が書けるよう頑張ります!よろしくお願いします!d( ̄  ̄) (2018年12月23日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
うめこんぶ(プロフ) - 更新ありがとうございます!126話と127話が抜けてると思いました。これからも楽しみにしています! (2018年12月23日 1時) (レス) id: 0ab6ffd78b (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ぱにぱにこちゃんさん» コメントありがとうございます・:*+.\(( °ω° ))/.:+ ゆるゆるっとですが、更新しますのでぜひ!よろしくお願いいたします♪ (2018年12月1日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
ぱにぱにこちゃん(プロフ) - 更新待ってますっ! (2018年6月17日 7時) (レス) id: e09c37547f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:SORA | 作者ホームページ:https://twitter.com/SORA_39xx  
作成日時:2018年5月29日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。