第108話 飲むしかない条件 ページ15
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パタン、と静かに閉ざされた重たいドア。目をつぶれば、泣きそうな目をしていたA様の表情が頭の中に浮かぶ。
小さく息を吐き、こっそり出ようとする小笠原海。まるで行く手を阻むように、小笠原海の前に小さな影が落ちた。
「待ってたよ」
顔をあげれば、目の前には壁に凭れて立っている稜雅がいる。
俺は、内心小さなため息をついた。
「…船津様」
小さく声をかけ、俺は胸に手を当ててお辞儀をした。
「どうだった?Aと−最後の逢瀬は」
最後。その言葉が、深く胸に突き刺さる。
胸に当てていた手を、俺は静かに握りしめた。
「…特に」
それだけ答え、俺は静かに頭を上げる。
ズキズキと痛む胸を隠すのに、精一杯だった。
「…屋上へ参りましょう。会長が、もうじきお見えになります」
「もうそんな時間か」
先を歩き出す稜雅の背中を見つめる俺。
「(ペナルティとして、俺はAから稜雅の元へつくことになってしまった)」
ふと、ついさっき起こった出来事が思い浮かぶ。
懲罰房から綺麗な部屋に通された時。
《俺の言うことを聞くと約束するなら、最後にAに会わせてやる。加えて、執事資格剥奪も無しだ》
稜雅はそう言って、俺に条件を突き出した。
断る理由なんて、どこにもない。
俺の中で、稜雅の言っていた「今のAの姿」というセリフが妙に引っかかっている。
一目で良いから、A様の姿を見たい。そう、遠目でも良いから−。
《…かしこまりました》
懲罰房に閉じ込められて過ごすより、外に出て−稜雅と一緒に行動していれば、いつの日かA様に会える機会があるかもしれない。
喋れなくても良い。元気に過ごしている姿さえ見られれば、それで良い。
バリバリバリと聞こえる羽音に、強い風が俺の意識を一気に現実へ引き戻す。
ぼーっとしていたのを誤魔化すように、俺は稜雅へ声をかけた。
「…到着、されましたね」
「そうだな」
ヘリポートの上に、立派なヘリコプターが到着する。ドアが開かれ、中から黒いスーツを身にまとった男たちが数人出て来た。
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桜月(プロフ) - うめこんぶさん» わわ!ご指摘ありがとうございます(;´Д`A 引き続き、良い小説が書けるよう頑張ります!よろしくお願いします!d( ̄  ̄) (2018年12月23日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
うめこんぶ(プロフ) - 更新ありがとうございます!126話と127話が抜けてると思いました。これからも楽しみにしています! (2018年12月23日 1時) (レス) id: 0ab6ffd78b (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - ぱにぱにこちゃんさん» コメントありがとうございます・:*+.\(( °ω° ))/.:+ ゆるゆるっとですが、更新しますのでぜひ!よろしくお願いいたします♪ (2018年12月1日 1時) (レス) id: 3c689d561d (このIDを非表示/違反報告)
ぱにぱにこちゃん(プロフ) - 更新待ってますっ! (2018年6月17日 7時) (レス) id: e09c37547f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SORA | 作者ホームページ:https://twitter.com/SORA_39xx
作成日時:2018年5月29日 19時