愛情は思ったより尊い【赤井秀一】

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「あの､赤井?待て､ステイ､ハウス」
「俺は犬じゃない」

腕の中にいる恋人の首筋に顔をうずめれば､焦ったような声が聞こえてくる｡

「…キスがしたい」
「っん"!?」

顔を上げれば､全力で俺から顔を背けるAが目に入る｡そんなに嫌なのか､それともただ照れているだけなのか｡きっと後者だろう｡

何故分かるか?俺に不意をつかれて彼女の耳が真っ赤なんだ｡そっぽを向いても耳は見えるからな｡そろりとこちらを見る顔は案の定真っ赤で…落ち着け､ゆっくり大事にすると決めただろう｡

「嫌なら､今はまだしない」
「その､いや､すまぬ…こういうのは､初めてで…嫌ではない､ただどうしたらいいか分からないというか…」
「そうか…なら目を閉じてくれ」

ぎゅっと固く瞼を閉じて､俺の服の袖をつまむように握るAに､愛おしさが増す｡

顎をくいと引いて､親指で唇をなぞる｡
ふにふにと柔らかく､厚すぎず薄すぎない形の整ったそれは､いつまでも触っていたいと思うほどにくせになる感触だった｡

重ねれば､その感触は更に敏感に感じ取れた｡

怖がらせないようにキスを堪能し､そっと離れる｡

「…もう目を開けてもいい」
「っはぁ､!」

ぜぇぜぇと呼吸を繰り返す彼女に､思わず大丈夫かと声をかける｡

「息の仕方が､分からなくて…っけほ」
「まさか､ずっと息を止めていたのか?」
「死ぬかと思った…」

げんなりとしているA｡
きっとまぶたを閉じた辺りから息を止めていたのだろう｡そうだ､ファーストキスじゃないか｡
指で堪能している場合では…いや､ファーストだからこそ堪能したかったんだ｡

「でも､好きな人とするのはいいな」
「!…ふっ､すぐ慣れるさ」
「え､おい､心の準備がまだ…ん!?」

後頭部を手で支えて､再度唇を重ねる｡
軽く唇を舌でなぞれば､違和感を覚えたのか閉じていたまぶたを開ける｡

黒い瞳には､きっと今俺以外は映っていないのだ｡それだけのことに喜びを覚え､軽くリップ音を立てて唇を離す｡

「なっ､今､さ…さっきのと違うではないか!なんだアレは!」

首筋まで赤く染まったAは､まだ純粋で真っ白だ｡その初々しい反応は､俺としてはとても嬉しくある｡

「これ以上のものもあるが」
「するかたわけめ!!!」

舌を入れるものだとは言わないでおこう｡

「…またの､機会にな」
「楽しみにしておくよ」
「慣れる気がしない…」
「今すぐに慣れる必要はないさ｡ゆっくりでいい」

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