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とても優しい手つきで頭を撫でられている。頬を撫でられている。
その温もりは私が欲してやまなかったそのもので――――…。

そういえば、プレゼントにと買った時計はおじゃんになってしまったんだっけ。
どうして駄目になってしまったんだっけ。

あぁ、とても、ここはあたたかくて。

「…A」

その声は、私がずっと聞きたかった声。
重い瞼を持ち上げれば、苦い顔をしている赤井がいる。右頬を包む彼の掌の熱は心地よいが、彼のそんな顔を見るのは心が痛かった。

「…君は、見かけによらず、無茶ばかり、する」

途切れ途切れの言葉が、震えている。

「俺は、また失うのかと…手の届かない場所で、君が、先に……いってしまうのかと」

ふわふわと雲の上のような感覚がスッと消えて、意識が覚醒していくのがわかった。

「…私は、ここにいる。生きているよ」
「俺は生きた心地がしなかった。君が過去を思い出すことが、俺は恐ろしかった。君が、また辛い思いをするのかと思うと…」

私を強く、強く抱き締める赤井の背中に腕を回す。そんな顔にさせたのも、赤井を饒舌にさせているのも、私。

「珍しく、饒舌だな」
「誰がそうさせている」
「…私だな」

心のうちを、明かすべきだと思った。
私のために悲しんでくれるこの人には、私の心を伝えねばならぬと。

「…私は、失うのが怖い」
「……あぁ」
「一人で死にたくはない」
「………そうか」

赤井は私の肩口に額を押し付けると、息を詰まらせた。そして、言葉を低い声色で紡ぐ。

「君は何も分かっていない。俺も同じなんだ。Aが怪我をすれば君を失うことを恐れる。君がほんの少し姿を消すだけで、俺は途方のない焦りを感じる」

じわりと視界が歪んだときには、もう遅かった。
あれほど言葉にすることを躊躇ったのに、仮面にヒビが入るように、厚く塗った塗装が剥がれていくように言葉が落ちていく。

「…私は、苦しむため生かされたのだと思った。家族と会えないまま、一人何もない場所で長い間現世を眺めていたときも…現世で初めて目を覚ましたときも」

それなのに、と思考を伴わないまま口だけが動く。

「私は、こんなにも温かい人達の中にいる。私を思って心を痛めてくれる人がいる。どうしようもなく、息苦しく、幸福に泣きたくなる…。貴方には、見苦しいところを見せてばかりいる。今何を言っているのか…私も分からない!」

モスグリーンが優しく私を見つめるから、余計に視界がぼやけて、眩しくて瞼を閉じた。

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ユキ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。個人的にとーる君は書いていて楽しいので、この話が一段落しても出てくるかもしれません( ̄∇ ̄*) (2019年3月29日 22時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
さち - おもしろかったです。続きがすごく気になりました。よろしくお願いします。 (2019年3月29日 22時) (レス) id: 1af3590574 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 奈楠さん» ありがとうございます。学業も忙しくなりますので更新ができない日々もあると思いますが、作品をよろしくお願い致します。コメント嬉しいです(о´∀`о) (2019年3月15日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 受験お疲れ様です!!!作者様のペースで大丈夫ですよ!更新頑張ってください! (2019年3月14日 21時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - 明里香さん» 教えて下さりありがとうございました!修正しました。閲覧ありがとうございます。 (2018年8月3日 7時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ユキ x他1人 | 作成日時:2018年5月20日 18時

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