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そこから先は一瞬だった。

無表情に上を向かされていた彼女は頬を撫でられた途端に弾かれたように右手の袖の中からスタンガンを滑らすように出して、左手は右腰からもう一本の木刀を抜いて男二人を倒した。

「私に、触るな」

その声はやはり、愛しい人の声だった。

ナイフを突き刺そうとした男の腕をいなし、ナイフを奪い取ってそのまま背負い投げをし、銃を撃とうとした最後の一人、先程まで俺に銃を向けていた男にナイフを投げて、顔の真横をそのナイフが通りすぎる。

恐怖を覚えた男は照準を合わせられなくなり、その隙に木刀でナイフを払われて下から顎を打たれた。

「私に触れていいのは、世界で、ただ一人だけだ」

全員気絶した後で、彼女は怒りに震えた声でそう言った。

「…A、記憶が」
「…あぁ、戻った。楓がもうこの世にいないこと……私の、愛しい人のことも」

強く、これ以上にないほどに強く抱きしめた。
不安だった。不安で仕方なかったのだ。
この温もりが無くなってしまったらと、もしこのまま記憶が戻らなかったのだとしたら、と。

記憶が戻って欲しいという気持ちと、記憶が戻らない方が良いのではないかという気持ちがせめぎあっていた。

記憶が戻れば楓が、家族が死んだときのことを鮮明に思い出すだろう。それだけではない。自分が死んだことも思い出されるのだ。普段辛そうなそぶりは見せないが、時々苦しそうな表情をするのは俺は知っていた。

記憶が戻らなければ、家族が死んだことも自分が死んだことも思い出さないですむのだ。しかし、俺のことも、ボウヤのことも、思い出さないままなのだ。

結果的にAは記憶を取り戻した。
それが本当に良かったのか、Aにとっては辛かったのではないかと思ってしまう自分が居た。そんな馬鹿なことは考えたくなかった。

「…名前を、呼んでくれ」
「A、A…A…」

細い小さな身体は、先程までの圧倒的な力など思わせないもので、震える小さな手が表に出さない感情を表していて、どうしようもなく愛しいと感じた。

気付けばジョディやキャメルが来ていて、仲間を呼んで男達を回収してくれた。

ふらつくAを支えると、申し訳なさそうな顔をしたので、頬を撫でる。

「ありがとう、少し休むといい」
「…すまない」

長い睫毛が白い肌に影を落とす。
相当疲れたのだろう、血色が悪い。
揺らさぬように横抱きにして、キャメルが用意してあるという車へ向かった。

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ユキ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。個人的にとーる君は書いていて楽しいので、この話が一段落しても出てくるかもしれません( ̄∇ ̄*) (2019年3月29日 22時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
さち - おもしろかったです。続きがすごく気になりました。よろしくお願いします。 (2019年3月29日 22時) (レス) id: 1af3590574 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 奈楠さん» ありがとうございます。学業も忙しくなりますので更新ができない日々もあると思いますが、作品をよろしくお願い致します。コメント嬉しいです(о´∀`о) (2019年3月15日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 受験お疲れ様です!!!作者様のペースで大丈夫ですよ!更新頑張ってください! (2019年3月14日 21時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - 明里香さん» 教えて下さりありがとうございました!修正しました。閲覧ありがとうございます。 (2018年8月3日 7時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ユキ x他1人 | 作成日時:2018年5月20日 18時

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