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「ふぁあ……あったかい」
気が抜けたような徹の声を切っ掛けに、Aと俺も息をつきながら温かい湯を堪能する。
徹は柚子の香りが気に入ったようだった。
「…ところで赤井」
「なんだ?」
「子供じゃないんだが」
「君が徹にやっているのを見てな、俺も君にやりたくなった」
今の状態を説明すると、Aの足の間に徹がいて、俺の足の間にAがいるのだ。徹は首をこちらに回して、にこにこと笑っている。
「なんで余裕があるのにくっつくのか…」
ため息をつきながら首をすくめるAの腹に後ろから腕を回すと、驚いたのかばしゃんとお湯が揺れたが、抵抗はされなかった。代わりに恨めしそうな目線が寄越された。
「それは徹が【母さんと父さんは仲良く風呂に入っている】というから、俺達も実践してるんだ」
「だから、って…」
濡れた髪が落ちてきたのが鬱陶しくて掻きあげると、Aはふいと顔を背けて徹の方へ向き直ってしまった。俺はAの後れ毛が濡れて白い肌に張り付いていることに気づいて、そこに手を伸ばした。
「のぼせた? かおがあかい」
徹の言葉に、Aは肩を跳ねさせた。
否、もしかしたら急に項に触れたから驚いたのかもしれないが。
「いや…そうかもしれない」
「ぼくもあつい、あがろ?」
腹に回していた手を湯の中でほどかれ、俺も湯船から出る。体を拭いていると、徹がじっと俺の方を見ていることに気がついた。Aは此方を気にする様子もなく体を拭いていて、俺はそろそろかと思っていたが、徹の視線が痛かった。
「しゅういち、どうやったらきんにくがつく?」
「トレーニングだな」
「ぼくもしたい…」
「子供のうちに筋肉をつけると身長が伸びなくなるらしい」
「えっ」
そんなことを話していたときだ。
「なッ!」
Aはふるふると震えながら此方を睨む。
「赤井、これは、一体ッ」
「君の寝間着だ」
「これ一枚か!?」
「俺に寝間着を用意するように君が言ったんじゃないか」
信じられないと震えるAの手には、俺のワインレッドのシャツ。細身の彼女には大きいため、かなり丈の短いワンピースのようになるだろう。
「とーる君、君からも何か言ってやってくれ」
「しゅういちは父さんとおなじことをするんだね」
「そういうことじゃない……」
しゃがみこんでガックリと肩を落としていたAだったが、ばっと顔をあげて徹を見た。
「とーる君のお母さんはどうしてたんだ?」
「きてたよ」
「…神などいない……」
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ユキ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。個人的にとーる君は書いていて楽しいので、この話が一段落しても出てくるかもしれません( ̄∇ ̄*) (2019年3月29日 22時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
さち - おもしろかったです。続きがすごく気になりました。よろしくお願いします。 (2019年3月29日 22時) (レス) id: 1af3590574 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 奈楠さん» ありがとうございます。学業も忙しくなりますので更新ができない日々もあると思いますが、作品をよろしくお願い致します。コメント嬉しいです(о´∀`о) (2019年3月15日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 受験お疲れ様です!!!作者様のペースで大丈夫ですよ!更新頑張ってください! (2019年3月14日 21時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - 明里香さん» 教えて下さりありがとうございました!修正しました。閲覧ありがとうございます。 (2018年8月3日 7時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユキ x他1人 | 作成日時:2018年5月20日 18時