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「…なるほど、とーる君のお母様が出張だったのか。それで今日此処に預けたいと」
ジョディの話を聞いて、Aは納得したように口を開いた。彼女の手はとーる君、もとい池田徹の手を繋いでいる。
「勝手に決めてしまってごめんなさい。もし無理なら私が預かると言いたいのだけどね…」
ジョディの視線が徹にいくと、徹はあからさまに顔をそらした。その顔は真っ青で、冷や汗が出ているように見える。
そうなる気持ちはわからんでもない。
なにせジョディの作る料理は芸術的だ。
何をどうしたらそうなるのかと聞きたいくらいのもので、本人はそれをまぁまぁかしら、といって食べるのだから本当に恐ろしい。
じゃあどれが成功でどれが失敗なんだ。
「…いやだ」
絞り出されたような声に、思わず同感だと心の中で呟く。
「私は構わない」
赤井はどうだ、と言うように視線を寄越すA。あぁ、これはもう諦めるしかない。
「俺も別に構わないが」
「なら、今日は此方で預かろう。それでもいいか? とーる君」
頷く徹は心なしか嬉しそうだ。
「夕食は食べたのか?」
「いや、これからだ」
「そうか」
Aは席を立ってそこにかけてあった淡い緑色のエプロンを掛けると、腕捲りをしながら言った。
「ジョディさん、大したものは作れないが、食べていってくれないか?」
「あら、じゃあ頂いていいかしら。私もなにか手伝」
「ぼくがてつだうよ!」
徹がジョディを遮ってAの方へ駆けていく。ジョディは微笑ましそうに眺めていて、Aは危ないからと少し悩んでいたが、暫く考えて彼女はしゃがんで徹に目線を合わせた。
「では、キャッチボールをしよう」
「キャッチボール?」
「好きか?」
「すきだけど…」
料理でキャッチボールという単語が出てくるとは思わず、徹は困惑していた。実は俺も分からず、ジョディを見ると、やはり分かっていないようだった。
「楽しみにしていてくれ。とーる君と一緒に作るんだ、きっと美味しくなる」
「あぁ」
キッチンの方へと向かう二人の後ろ姿を見て、俺は今までない感覚に襲われた。
「シュウ、何を焦ってるの? トオルはまだ幼稚園に通っている子供なのよ」
そうか、俺は焦っているんだ。仕事などでの焦りとは全く違う、言葉になんか到底出来はしない焦燥感。
「はぁ………」
「相当惚れ込んでるみたいね。変装のわけは話してるの?」
「いや、話してない」
ジョディが目を見開いた。
「FBIであることも?」
「…あぁ」
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ユキ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。個人的にとーる君は書いていて楽しいので、この話が一段落しても出てくるかもしれません( ̄∇ ̄*) (2019年3月29日 22時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
さち - おもしろかったです。続きがすごく気になりました。よろしくお願いします。 (2019年3月29日 22時) (レス) id: 1af3590574 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 奈楠さん» ありがとうございます。学業も忙しくなりますので更新ができない日々もあると思いますが、作品をよろしくお願い致します。コメント嬉しいです(о´∀`о) (2019年3月15日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 受験お疲れ様です!!!作者様のペースで大丈夫ですよ!更新頑張ってください! (2019年3月14日 21時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - 明里香さん» 教えて下さりありがとうございました!修正しました。閲覧ありがとうございます。 (2018年8月3日 7時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユキ x他1人 | 作成日時:2018年5月20日 18時