ヘリオトロープ

手の温もり ページ21

朝、目覚めるとまだお兄ちゃんの腕の中にいた。


上を見れば子どものような寝顔をしたラウと寝相が大爆発している佐久間兄妹。


『…そんなとこまで似てるんだ』


お兄ちゃんの腕を抜けて体を起こすとソファーでコーヒーを飲む阿部先生と目が合った。


｢おはよ｣

『…おはようございます』


この状況が恥ずかしくなって小さくなる声。


｢深澤も大変だね、お兄ちゃんに振り回されて｣

『えっ、と』


どう答えようか迷っていると腕を引っ張られ再びお兄ちゃんの腕の中。


『ちょっ、と』

｢はぁよ｣

『…おはよ』

｢浴衣、乱れてる｣


お兄ちゃんは小さな声でそう言って私の胸元を直した。


｢阿部ちゃんにそんな隙見せちゃだーめ｣


そんなことがあったせいで1日ドキドキしっぱなし。


気づけば帰る時間になっていた。


行きは大介さん、帰りは阿部先生の運転で帰る。


どこに乗ろうか迷っていたらお兄ちゃんに腕を引っ張られた。


｢お前は俺と一緒に降りるんだからこっちでしょ｣


肩が触れ合う距離に座ってしまい、少しだけ距離を取ろうとすればグッと腰を抱き寄せられた。


びっくりしてお兄ちゃんを見ると窓の外を眺めている。


｢ラウールは1番に降りるから俺の隣ね｣

｢はぁい｣

｢残念そうにしないで？｣

｢全然、先生の隣嬉しいです！｣

｢はははっ。棒読み｣


2列目に座る佐久間兄妹は仲良くアニメ鑑賞。


楽しかったなぁと思いにふけっているとお兄ちゃんがみんなの死角になるように手を繋いでくる。


その手をジーッと眺めていると指を絡める繋ぎ方へ変わった。


温かくて優しいお兄ちゃんの手。


ギュッと握り返してお兄ちゃんを見ればびっくりした顔で私を見ていた。


ちょっと、顔赤いような気がするけど…気のせい？


｢おーい、着いたぞぉ｣

『ん…』

お兄ちゃんの声に目を覚ますと家の前。


私…いつの間にか寝ちゃってたんだ。


『先生、すいません寝ちゃいました』

｢全然大丈夫だよ。ラウールにしっかり話相手してもらったから。また新学期に学校でね｣

『はい。ありがとうございました』

｢阿部ちゃんありがとねぇ｣

｢はいよー｣


車を降りる時に離された手。


ばいばーいとみんなに手を振って家に入る。


右手にはまだお兄ちゃんの手の温もりがほんのりと残っていた。

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