戻れないから

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それから私たちは毎日チャットでやりとりをしたり、夜遅くまでビデオ電話してみたり、高校の頃にできなかったことをたくさんした。

お泊まりデートにドライブデート、今度はちゃんとムードのある恋愛映画も見た。

年齢のせいか2人して映画館で大号泣したのはここだけの話。


「翔太目真っ赤」

「Aもだろ」

「ちょっとメイク直してくる」

「無駄だな」

「うるさい。待ってて」

「へーへー」


映画館を出てすぐのお手洗いにあるパウダールームへ入ってメイクを直す。

たしかに1回全落とししてやり直しした方がいいくらいグズグズだ。

だけどここでもう一度フルメイクっていうわけにもいかず、なんとか誤魔化せるくらいには戻せた。

さすが美容師だわなんて自分を褒めながら彼の待つ場所へ戻るとなにやら前髪を気にしている様子。


「お待たせー」

「3時間は待ったな」

「盛りすぎ、5分くらいでしょ」

「…ねぇあのさ、来週の金曜日って仕事?」

「…?うん」

「髪、伸びてきたからどうにかしてくんね?」

「え、私!?」

「だって美容師じゃん」

「いやまあそうだけど…私でいいの?」

「お前がいい」

「…時間は?何時がいいの?」

「17時とかいける?」

「うん、大丈夫。メニューは?」

「任せる」

「…雑すぎん?」

「俺に似合いそうなやつにして」

「絶対あとから文句言うじゃん」

「大丈夫だよ、美容師なんだからセンス抜群だろ?」

「…」

「ふは、冗談。そんな顔すんなって。別にAがやってくれるなら文句言わねーよ」

「坊主でも?」

「それはキレる」

「ふふ。じゃあ…とりあえず似合いそうなの候補探しとくからその時に選んで。明日予約確認してから大丈夫な時間も送る」

「ん、よろしく」


彼にはこだわりというものがないのか?

自分の髪型くらい自分で決めればいいのに。

翔太に似合いそうな髪型か。

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