紫陽花 27 ページ30
真っ白な部屋だ。
部屋に入って、エーミールが一番に感じたことだった。
まるでいつもしんぺい神がいる医務室のように、だがあそこは白以外にも花や個人の荷物など他の色に溢れている。
しかし、ここにはほとんど白しかなかった。
あるのは、窓から見える森と空の景色。
そして、白いベッドに横たわる、傷だらけの女性。
あの時見た写真のように、包帯で肌が見えないほど傷つけられ、首と手足を拘束されている姿に、息をのむしかなかった。
だがそれ以上に、先程まで怒りに狂っていた男がただ立ち竦んでいたのも気になった。怒りで逆に冷静になったのか？
すると、するりと無骨な男の手を華奢で小さな女の手に重ね合わせた。
嗚呼、違うのだ。
怒りに身を任せている訳では無いのだ。
この人は今、最愛の存在を噛み締めているのだろう。
2人っきりにしてあげた方がいいのかもしれないが、遠く離れると自分が危険だ。
エーミールは3歩ほどベッドから離れ、ことの流れを見守った。
温かい。
人の、体温だ。
…生きている。
小さな手を握り、離すとそのままゆっくり首元に指を当てる。どくん、どくんと力強く脈打つ生命の証。
そして、頬に手を添える。
もっとよく見たい。確かめたい。
両手で頬に手を当て、顔を近付けると頭の上の軍帽が床に落ちた。
嗚呼、嗚呼。
｢…A｣
俺の可愛いA。大切な妹。
あの時、確かに失った温かさが、今俺の手の中にある。戻ってきたのだ。
ぽた、ぽた。
重力に伴い、Aの頬に雫が落ちていく。
すると、ぴくり、瞼が震えた。
ゆるゆると瞼が開き、美しい薄青色の瞳が覗いた。
焦点が合い、瞳が大きく見開かれた。
｢…に、いさま……？｣
何度悔しさを、虚しさを、怒りを堪え夜を過ごしただろう。
何度涙で枕を濡らし夜を明かしただろう。
鮮やかな紫陽花を見る度、どれだけお前を望んだだろうか。
｢ッ…A。嗚呼、俺の妹よ｣
｢兄様…？本当、に…｣
｢そうだよ、そうだとも。
お前の兄のひとらんらんだよ｣
薄青色がじわりじわりと濃青色へと変わっていく。
涙の膜が浮かんでいき、耐えきれなかった雫が米神へと流れていった。
｢兄様、兄様…ッ！あ、会いたかった、のです…ずっと…！｣
｢俺もだよ…ずっと会いたかったんだ…！A…！｣
嗚呼、俺の愛しい紫陽花が戻ってきたのだ。
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すずねこ - 更新頑張ってくださいね❗ (2022年7月11日 20時) (
レス) @page48 id: 5c9b7042cd (このIDを非表示/違反報告)
スノウ(プロフ) - 夜さん» 続きは書きたいです…！ですがリアルが忙しくなかなか更新できないのが悔しいです…！コメントありがとうございます！待っていただければ、いつか、いつかは！！書きますのでお待ちください！ (2021年4月5日 23時) (レス) id: 8e20d2cd66 (このIDを非表示/違反報告)
夜 - とても面白くて一気読みしてしまいました！まだ続きは書かれる予定ですか？書いてくださるならいくらでも待つので更新頑張ってください！ (2021年2月5日 21時) (レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
スノウ(プロフ) - ウルズさん» コメントありがとうございます！パスワードの件はご迷惑おかけしました…(；´Д｀)最初の頃から見ていただきとても嬉しいです！ (2020年10月13日 23時) (レス) id: fa99c77dd8 (このIDを非表示/違反報告)
ウルズ - またこちらの作品が読めて嬉しい限りです。連載初期から文が素敵だと思い愛読してました。急に検索しても出てこなくなった事に驚きましたが、パスをかけられていたと知り納得しました。詳しい事情は分かりませんが、これからも頑張って下さい。更新楽しみにしています。 (2020年10月13日 22時) (レス) id: 18e5b459af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：スノウ | 作成日時：2019年10月30日 13時
