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閑話 ページ15

ポタ、ポタ…と剥き出しのアスファルトに水滴が落ち、痛いほどの静かな地下室の独房に響き渡る。
少し腕を動かせば、手首に嵌められている手枷と鎖が擦れ合い、嫌な音を立てる。
しかし、拘束されている本人はそんなことを一切気にもとめず、頭を項垂れ、ただ目を閉じていた。
伸ばしっぱなしの長めの前髪が表情を隠している。

すると、キィ…キィ…と微かな音がどこからか空間に響く。
先程まで伏せていた顔をサッと上げ、音の発生方向に目を向けた。
その色は、美しいワインレッドと鮮やかなオーシャンブルーのオッドアイ。

音とともに現れた人影に、─その青年は微笑んだ。

?「…勝手に出歩いては、またあの男に怒られてしまいますよ?

──A様」

車椅子に乗ってやってきたのは、黒髪に今日は濃いめの紫色の瞳をした少女。
彼女こそがひとらんらんの妹、Aである。
身体の至る所に包帯を巻いたAは、眉を下げ力なく微笑んだ。

「…大丈夫よ。あの人は今出掛けているから。
それよりアルジェント、貴方の怪我を…」
?「この程度、私にはなんの弊害にもなりません。
私のことよりも、A様はお元気でいらっしゃいますか?」

アルジェント、と呼ばれた青年は、身体中に痣や傷をつけながらも優しく微笑んだ。
彼の白に近い白銀の髪は、血や埃で汚れている。

「私は、大丈夫よ。
…食事は喉を通らないけど、生きているもの。
まだ、大丈夫」

痩せ細った腕を撫でる。
華奢な手首には、長年の手枷で付いた痛々しい痣がこびり付いている。
首には相変わらず爆弾付きの枷が嵌められており、これがある限り彼女は自由になることはない。
それは、アルジェントも同じであった。
彼にもAと同じデザインの首枷が付けられている。

「アル、いくら貴方に戦闘民族の血が流れていて、自己回復が人よりも早いからといって、決して不死身ではないのよ。
…私から、あの人に一言でも──」
ar「いいえA様。
あの男に余計に何か言えば、危ないのは貴方様です。
私は大丈夫ですから。
…どうか、御身を大切になさって下さい」

色の違う宝石のような瞳には、心配の色が浮かんでいる。
真っ直ぐに見つめられ、Aは何も言えなくなり薄い紫色の瞳を閉じた。
彼女の心を満たすのは、何も出来ない悔しさと、ただ守られるだけの自分への罵倒だった。

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すずねこ - 更新頑張ってくださいね❗ (2022年7月11日 20時) (レス) @page48 id: 5c9b7042cd (このIDを非表示/違反報告)
スノウ(プロフ) - 夜さん» 続きは書きたいです…!ですがリアルが忙しくなかなか更新できないのが悔しいです…!コメントありがとうございます!待っていただければ、いつか、いつかは!!書きますのでお待ちください! (2021年4月5日 23時) (レス) id: 8e20d2cd66 (このIDを非表示/違反報告)
- とても面白くて一気読みしてしまいました!まだ続きは書かれる予定ですか?書いてくださるならいくらでも待つので更新頑張ってください! (2021年2月5日 21時) (レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
スノウ(プロフ) - ウルズさん» コメントありがとうございます!パスワードの件はご迷惑おかけしました…(;´Д`)最初の頃から見ていただきとても嬉しいです! (2020年10月13日 23時) (レス) id: fa99c77dd8 (このIDを非表示/違反報告)
ウルズ - またこちらの作品が読めて嬉しい限りです。連載初期から文が素敵だと思い愛読してました。急に検索しても出てこなくなった事に驚きましたが、パスをかけられていたと知り納得しました。詳しい事情は分かりませんが、これからも頑張って下さい。更新楽しみにしています。 (2020年10月13日 22時) (レス) id: 18e5b459af (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:スノウ | 作成日時:2019年10月30日 13時

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