第五話 アダンダラのマリア ページ25
【それは、聖母の名を冠する大妖である】
ウォーターセブンから出ている連絡船を乗り継いだ先に、クーザと呼ばれる海域がある。正式な呼称としてはウォーターセブン海域クーザ諸島群なのだが、誰もがクーザ海域と呼んでいた。
この海域には諸島が多い。
小さな島の集まりが見えたかと思えば、過ぎたところにまた一つ、さらに遠くにもう一つ…と群島が海域全体に点在している。また海域の大半がとても浅く、豊かな珊瑚礁が育まれている。この水深と珊瑚礁が船にとってはやや厄介で、特に大型貨物船や軍艦等は船底を擦る可能性が高いのだ。なので随分昔から立ち入り制限がかけられていて、軍艦が入れないとなっては海軍支部も設置できず、しかし大きな出来事とは無縁なのでそもそも海軍は必要なかった。
そんな海域にある諸島の片隅。
時刻は午前七時過ぎ。
レモンの名産地として知られるリニ諸島のシラトラ島に、歴史を感じさせる鐘の音が響き渡る。朝を告げるその音は、海辺に建てられた古い教会の鐘塔で鳴らされているようだ。塔の足元ではマーケットが開かれていて、まだ幾分早い朝にも関わらず賑わっている。教会を中心に町は広がり、急な坂道には白壁の家々が密集している。家々の合間を縫う路地は細く、階段の脇に植えられている白藤が、ベールのように揺れる様子は美しい。
それらを見下ろせる小洒落たカフェでは、参謀本部に属するマリア中将、本名カッツェ・マリエンがモーニングを楽しんでいた。
肩辺りで揃えられた白髪がふわり、さらりと風に流れ、撫子色の双眼は満足そうに薄められている。耳にはシルバーのチェーンピアスが着けられ、フックの部分には赤珊瑚の飾りがあしらわれていた。腰には鍔のない黒色の剣〈黒巴蛇〉が下げられ、木漏れ日を受けて鈍い輝きを放つ。相席しているハインはのんびりと遠浅の海を眺め、同僚マリアが口ずさむ異国の歌を聞き流していた。
雲一つない見事な快晴。
海と空との境目が曖昧に見えるほどに、目の前に広がる光景は青一色。遠浅の海は青みが薄く、外洋はインクを垂らしたような濃紺色、そしてさらに遠くになると大気に霞み、空と混ざって空色となっていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 267人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
poidf(ポイドフ)(プロフ) - 誤字も見付けたら教えてくださいまし (11月18日 18時) (
レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
poidf(ポイドフ)(プロフ) - どこかにルビ振る為の■が混ざってるかもしれません。混ざってないかもしれない。忘れましてよ。見つけたら教えて。 (2023年3月7日 22時) (レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
