第三話 ネモエリア ページ13
テーブルアイランドはその名の通り、海にテーブルを沈めた様な形をしている島だ。
島の直径は約三十キロ。
春島のジャヤ海域に属するだけあり、一年を通して穏やかな天候に恵まれた島だ。肥沃な黒土に支えられた大草原がどこまでも広がり、起伏は極めて緩やかで山はない。海の中を覗けば、そこにはストンと切り落とされたかのような断崖絶壁。たった一歩踏み出しただけで、深い深い海底まで一直線だ。
そんな島の海岸から少し内陸に入った丘の隅で、若草の擦れる音を聞きながら、ハインは地に伏せていた。
背丈の高い草は彼女の白い軍服を隠し、その中で蛾の目の腰布を迷彩代わりに羽織れば、簡単に草陰に溶け込める。柄こそ派手だが地味な色合いの腰布は景色に馴染み、きっと目を凝らしても見付からないだろう。彼女の視線の先には革命軍旗を掲げる中型船が一隻停泊し、研究者が歩き回っている。彼らは船から大きな木箱を降ろしたりタープテントを張ったり、のんびり野営設営作業を進めていた。
ざっと数えただけでも二十人。
しかし野営規模から察するに、少なくとも船があと一隻、もう一隻分の人員がいても良さそうなものだ。
(護衛艦もいたけど今は出かけてる、か。)
猫じゃらしを捨てて双眼鏡を覗き込んだハインは、野営地の様子を観察し続ける。
野営地から遠くない位置に、地下へと続く入口が二つほどあり、機材を背負った数名の研究者がその中へと入っていく。その後、他の研究者達も地下に潜ったおかげで不用心にもテント群は無人となり、付けっぱなしのラジオが音楽を流すのみとなった。しばらく様子を見ていたハインは研究者達が戻って来ないと見越すや、草むらから出て若草を踏み踏み、テント群に近寄る。
一番大きなタープテントには、海軍でも使用している工業用ライトが立ち、地面の木箱にはロープやバケツが雑に重ねられている。机代わりの木箱には近海の海図と地質学の本、書きかけの地下洞窟見取り図が出しっぱなしだ。
ハインは見取り図を小脇に抱えると、彼らの船へお邪魔した。並ぶドアを開ければ誰かの私室、次は物置、そして食料庫。落ち着いた雰囲気の寝室にはハンモックやベッドが設置され、サイドテーブルには家族写真が飾ってある。
甘い香りが漂う食堂を覗けば年季の入ったテーブルに美味しそうなりんごタルトが二つ、熱をとるために置かれていた。
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poidf(ポイドフ)(プロフ) - 誤字も見付けたら教えてくださいまし (11月18日 18時) (レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
poidf(ポイドフ)(プロフ) - どこかにルビ振る為の■が混ざってるかもしれません。混ざってないかもしれない。忘れましてよ。見つけたら教えて。 (2023年3月7日 22時) (レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
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