五条さん家のお兄ちゃん！ 続編【呪術廻戦】

72. ページ39

小川に向かうと、ひとりで遊んでいる子供がいた。自分よりもずっと歳下で、目が合った瞬間に話しかけられた。

俺を邪険に扱わない様子から、この辺の子じゃないんだと思った。実際、越してきたばかりだそうで、更には両親が共働きで忙しく、兄弟も居ないから退屈していたところだとその子は言った。

これはチャンスだと思った。友達になるなら、この子しか居ないと。この子が世間でないのは、何も知らない今しかないと。

俺は猫を被ることにした。失敗しないように細心の注意を払った。その子は自分のことを沢山話してくれた。俺のことは何も話さないようにした。

その子はすぐる君といった。漢字は分からなかった。俺の名前は教えなかった。

｢金魚が入ってる…！｣

｢少し前に、僕のお兄ちゃんがお祭りの屋台で取ってくれたんだよ｣

｢1匹しかいないよ｣

｢僕のお兄ちゃんは2匹も取って、僕は1匹も取れなかったんだ。この子はお兄ちゃんから分けて貰ったの。コツも教えてもらったから、きっと次は取れるよ｣

｢一緒にしないの？｣

｢お兄ちゃんのはもう死んだ。普通はすぐ死んじゃうんだって、お兄ちゃんが言ってた。この子は、うーん…僕の術式があんなだから、逆に生きていられるのかな｣

｢術式？｣

｢なんでもない。すぐる君には無いと良いね。良いもんじゃないから｣

｢うん…？｣

そんな会話を、やけに鮮明に覚えている。

1週間後、兄貴は作戦を思い付いた。

｢良いか、対象の術式は発動されたら厄介だ。俺の術式で封じ込めないでもないが、手間がかかりすぎる。
だからこうだ。お前は対象と仲良くなれ。対象に触れても警戒されないぐらい懐に入り込め。
そして然るべき時、俺が対象の動きを封じる。動きだけだ、術式は発動できる。その状態で、お前は裏切り者であることを告げ、術式を開示し、対象に触れろ。
お前の術式が効き始めたら、俺は封印をとく｣

｢でもそれじゃあ、術式を発動されちゃうかも知れないじゃないか｣

｢そうされないように、親睦を深めるんだよ！どうだ、いい案だろう？仲良くなった友達に裏切られて、自分が死ぬか相手を殺すかの判断を迫られるんだ！どちらにせよ対象は苦しいに違いない。ああ、最高の案だ！｣

兄貴は、御三家出身である対象を酷く妬んでいた。そして人を殺すことになんの躊躇もなく、むしろ楽しいイベントだと思っているようだった。俺はこの時から、兄貴と分かり合えなかった。この時から、俺の中の優しい兄貴は死んでしまった。

73.→←漆ノ章ーそう思ってたよ、兄貴

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