episode.42 ページ42
*
阿部side
ここへきてどれくらい経っただろう。
泣いたからって何が変わるわけでもなく、残ったのはいろんな感情がぐちゃぐちゃになって生まれた虚しさだけだった。
それでも、涙が止まったことで少しだけ落ち着きを取り戻した俺は、いい加減帰ろうかとその場を後にした。
別に期待してたわけじゃないけど、ふいに取り出したスマホには、特にメンバーからの連絡もない。
恐る恐る楽屋の前を通っても、もう誰の姿もなかった。
俺が勝手に逃げたんだから当然だよなと思う一方で、それでもひとりくらいどうしたのって手を差し伸べてくれても良かったじゃんなんて思ってしまう。
仕事のために自分の身体を犠牲にしているのに、その仕事さえ上手くいくどころか俺のせいで雰囲気を悪くしている。
なんだか無性に腹が立ってきて、でも、それが誰に向けられるものかを考えたら、紛れもない自分だった。
誰かに病気を隠せと言われた訳ではない。
無理して仕事をしろと言われた訳でもない。
全ては自分の意思でやっていること。
でも俺だって好きで病気になったんじゃないんだよ。
好きで隠して無理してるんじゃないんだよ。
今はこうすることが最善だって、それしか思いつかないんだよ。
一旦は落ち着いたはずの感情がまたグラグラと揺れだし、呼吸が荒くなる。
肌寒い夜道をひとり、過呼吸気味になりながら早足で歩く。
なんとか辿り着いだ自宅の玄関で、俺の理性は崩壊した。
いつもポケットに入れていた採血の機械、触れるのも目につくのも煩わしくて、思い切り遠くに投げつけた。
溢れる感情をぶつけるように、クッションを何度も何度もベッドに投げつけた。
でも、そんなもので気持ちが晴れるわけもなく、余計にイライラが募っていく。
胸がギュッと苦しくなって、また涙が溢れてくる。
胸の痛みを逃すように無意識につねった腕が赤くなっている。
なんでか少しほっとした。
これだ、そう思ったときにはもう遅かった。
何も考えず、目につく中でいちばんダメージを与えられそうなヘアスプレーの缶を手に取って、自分の腕を力一杯殴りつける。
「、っ、たっ、、ぃっ、、あああああああ！もう！なんでだよ！うわぁあああっ！！っ、はぁっ、っ」
大声で泣き叫びながら、何度も、何度も。
痛かった。
でも、真っ赤に腫れ上がった腕を見て、やっぱり、ほっとしたんだ。
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あお - 続きが更新されるのを楽しみにしてます。 (2021年5月6日 1時) (
レス) id: 5edf3afd73 (このIDを非表示/違反報告)
ユキト(プロフ) - 苦しくて泣いちゃうけど読み応えあります、大好きな作品です。 (2021年4月19日 1時) (レス) id: 08a263e11b (このIDを非表示/違反報告)
藍華(プロフ) - はじめまして！この作品を愛読させて頂いているものです。ほんとにお話を読むたび苦しくなるのですが、何回も読み返すくらい大好きな作品です! (2021年4月9日 0時) (レス) id: 55f4a21869 (このIDを非表示/違反報告)
恋した月(プロフ) - 初めまして、このお話が好きすぎるのでコメントさせてもらいます()どの描写もabらしくてSnらしくて本当に美しいくて苦しくて大好きです。これからも応援しています。 (2021年2月13日 17時) (レス) id: d6f1a4b68b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しぃ | 作成日時：2021年1月26日 12時
