Scene36 花束 ページ36
『______あと1週間というところでしょう』
その声を聞いてからちょうど7日目。
シュウはベンチに腰掛けたまま病棟に入れないでいた。手にはびっしり汗が流れ、シャツは汗に濡れているように感じた。
その“1週間”が何を表すのか、シュウには容易に想像がついた。だからこそこの7日目に異常なまでの緊張を感じてしまうのだった。もちろん1週間きっかりというわけではないとはわかっていながらも、その区切りの1週間が終わることへの恐怖は大きかった。
さあ行かなければと立ち上がっては、また座っての繰り返しだ。
希望を持って信じようと胸に刻んだものの、この自分の不甲斐なさと情けなさに呆れながら、やはりこわばるのは表情だけだった。
何分、そうしていただろうか。清掃員の人の邪魔になるのを察して、ようやくシュウは通い慣れた病棟に足を踏み入れた。
いつもはエレベーターを使うこともあったが、この日は階段を上った。一段一段噛みしめながら、シュウはこの階段が永遠に続いていればいいのにと思った。
最後の踊り場を回り、もう逃げ道はなくなった。
もはやシュウの心に迷いはなかった。
いつか立てた誓いは、果たせなかったかもしれない。
希望を持って、これからぶつかるであろう壁に対峙する自信があった。
ドアは、いつもの10倍重たかった。
「A…」
今まで機材に繋がれていたAの身体はもう生まれたままのかたちで、無数にあった医療機器もすべて無くなっていた。そのかわり、それらのあった場所には、色とりどりの花束が置かれていた。
花はひとつひとつ目立ちながらもくっきりとAを引き立て、薄いカーテンからは細やかな輝きが漏れてベッドを舞っていた。
いつかシュウの持ってきた小さな鉢植えの花は、部屋の隅っこで、最後の一枚の花びらを散らしていた。
シュウはふらふらとAのベッドへ歩を進めた。
「A………」
氷のように冷たいAの手は、シュウの心臓の一番奥の部分を掴んだようだった。
大会で優勝しても泣かなかった。そこで終わりではなかったから。
Aの病気のことを知っても泣かなかった。まだ信じきれていなかったから。
“1週間”と聞いても泣かなかった。希望を信じようと思えたから。
ずっと耐えていたものが吹っ切れたようだ。
神様は、いなかった。
何度想っても何度誓っても何度祈っても関係なかったのだとシュウは自虐的笑みを浮かべた後、
嗚咽を殺して泣いた。
Scene37 王子様のキス→←Scene35 忘れていたなにか
ほらほら、あの人から言いたいことがあるみたいですよ☆
シスコ「お前はオレだけ見とけばいいんだよ」
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通行人 - ふと思い出して、久しぶりに来てみました。やはり引き込まれる。 (2019年9月5日 19時) (レス) id: 7f966a9c98 (このIDを非表示/違反報告)
瀬央(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます!少ない脳を振り絞って書いただけありました(笑) トプ画のことまでお気づきとは…さすがです! (2019年2月15日 23時) (レス) id: a6baa0d096 (このIDを非表示/違反報告)
美桜(プロフ) - あと、トプ画ですが、人物を抜いてオーダーされていましたね!そこがとても内容と合っていてさすがだな〜とセンスに感動しています 次作品も楽しみに待っていますね〜^^ (2019年2月15日 22時) (レス) id: 02de3cf915 (このIDを非表示/違反報告)
美桜(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございました!!!フブキもシュウも彼等らしい爽やかな感じで、読んでいて温かくなりました^^とても読みやすい文章に文間、ストーリー構成、とても勉強になります!私も瀬央さんを見習って、風景と心理描写をシンクロさせたラストへ進みたいです (2019年2月15日 22時) (レス) id: 02de3cf915 (このIDを非表示/違反報告)
瀬央(プロフ) - みずきさん» そう言ってもらえるととても嬉しいです。ベイバをこよなく愛してるから、学校の作文より本気になって書いてるかもしれません(笑) (2019年2月12日 23時) (レス) id: d89c1d2e97 (このIDを非表示/違反報告)
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