Scene31 自販機 ページ31
ガタッとペットボトルが落ちる音がした。Aの父親は自動販売機の取り出し口に手を伸ばし、ミネラルウォーターを取った。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
シュウにそれを渡したAの父親は、同じことをフブキにも繰り返した。
「お父さんたら、Aが手術の前に言った男の子の名前をずっと気にして、“うちの娘をたぶらかした男、絶対許さん！”とか言ってたくせにね」
「そのことは帳消しだ。しっかりした子たちで、好感が持てるよ」
Aの両親はともに38歳だと言うが、実際はそれより少し老けて見えた。苦労の証なのかもしれない。
シュウたちがAの両親に話しかけて事情を説明すると、彼らの態度を見て、Aの両親は心を許してくれた。そして今、病院の中庭で4人は木陰にいた。
シュウは、いつかこうAと2人で身を寄せ合った公園の大樹を思い出した。
「…彼女は、僕たちの話をしなかったんですか？」
フブキは尋ねた。さっきのAの母親の言葉からして、それは明らかだった。なぜ彼女が自分たちの話をしなかったのか、知りたかった。それほどに思っているわけではなかったのか、あるいはその他の理由があったのか。
「Aは決してその話はしなかったわ。毎週日曜日、外出できる時間帯はいつもクッキーを連れて公園に行っていたのだけれど、そこでお友達と一緒だったとは、知らなかった。まあ、同室の梅子さんには話していたみたいだけど。あの子は、他人と関係を持つのを嫌がっていたから…」
Aの母親はAとよく似た瞳で青い葉をなぞった。
「嫌がっていた…？」
「正確には、怖がっていたのかな。自分の死期が近いことをあの子なりに感じていたらしいから、必要以上に誰かに関わって、お互いを大切に思っていて自分が死んでしまうのが怖かったみたいね」
ハンカチを目に当てたAの母の顔は、とても美しかった。寂しい顔をしたAにそっくりだった。Aが歳をとれば、この母親そっくりになるだろうと、シュウは思った。そしてそのあと、未来を保障されていない彼女を思ってその考えを追い出した。
「だから、君たちが娘によくしてくれたのはとてもありがたかった。誰とも関わるのを避けていた娘が打ち解ける子がいたなんて、とても嬉しい。シュウ君、フブキ君、ありがとう」
疲れ気味で、しかし品格のある父親だった。
残暑が4人を照らしつけ、ミネラルウォーターも汗をかいている。
空は、はめ込まれたように雲のない青色だった。
ほらほら、あの人から言いたいことがあるみたいですよ☆
シスコ「お前はオレだけ見とけばいいんだよ」
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通行人 - ふと思い出して、久しぶりに来てみました。やはり引き込まれる。 (2019年9月5日 19時) (
レス) id: 7f966a9c98 (このIDを非表示/違反報告)
瀬央(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます！少ない脳を振り絞って書いただけありました(笑) トプ画のことまでお気づきとは…さすがです！ (2019年2月15日 23時) (レス) id: a6baa0d096 (このIDを非表示/違反報告)
美桜(プロフ) - あと、トプ画ですが、人物を抜いてオーダーされていましたね！そこがとても内容と合っていてさすがだな〜とセンスに感動しています 次作品も楽しみに待っていますね〜^^ (2019年2月15日 22時) (レス) id: 02de3cf915 (このIDを非表示/違反報告)
美桜(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございました！！！フブキもシュウも彼等らしい爽やかな感じで、読んでいて温かくなりました^^とても読みやすい文章に文間、ストーリー構成、とても勉強になります！私も瀬央さんを見習って、風景と心理描写をシンクロさせたラストへ進みたいです (2019年2月15日 22時) (レス) id: 02de3cf915 (このIDを非表示/違反報告)
瀬央(プロフ) - みずきさん» そう言ってもらえるととても嬉しいです。ベイバをこよなく愛してるから、学校の作文より本気になって書いてるかもしれません(笑) (2019年2月12日 23時) (レス) id: d89c1d2e97 (このIDを非表示/違反報告)
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