あの日、初恋の匂いがした。【ベイバ超ゼツ 紅シュウ】

Scene29 向かい風 ページ29

窓の外には同じような街並みがただ通り過ぎる。
シュウは考えた。考えて考えて、
すべてわかった。
ベイブレードのことを説明するとき、“昔、クラスの男子もやっていた”と過去形にしていたこと。
将来の夢を尋ねたときの、曖昧な表情。
中学校の話を聞いたとき、極度に的外れなことを言ったこと。
平日だった大会を、リアルタイムで観ると言ったこと。
極め付けは、時間が来ても引き留めたときの、異常なほどの怯え方。“死ぬ”という発言。
______気づく要素はどこにでもあったはずなのに。
勢いでタクシーに乗り込んだものの、そううまく運ばないのが人生というもので、すぐにニューヨークの渋滞に巻き込まれてしまった。
「これは悪いな。この調子じゃ全然動きませんよ」
タクシードライバーは困ったように言った。
「病院まで、どのくらいかかるんです？」
「このままだと、1時間はかかるんではないかな」
「1時間⁉」
悪いが2人にはそんな時間はない。そして彼女にも。
一刻でも早く、会いに行きたかった。それが間に合わなかったとしても。
「どうしよう…」
頭を抱えるシュウに、フブキは言った。
「行きますよ、シュウさん！」
「えっ、ちょっ」
フブキはシュウの腕を引っ張って、タクシーのドアを開けた。
「すみません、僕たちここでおります！」
「あ、お金！これでお願いします、お釣りはいりませんから」
シュウもフブキがしようとしていることがわかり、素早く財布から抜き取ったお札を一枚残して車外へ出た。例によって渋滞中であるため、2人はすばしっこく車間を通り抜けて歩道に出る。携帯の位置情報機能を使って病院までの道筋を確認する。
「ここからだと自転車が一番早いな」
「レンタルですね」
シェア自転車は街中のいたるところにあるため、シュウもフブキもすぐそれに飛び乗ってペダルを漕いだ。彼らはアスリートだ。下半身は鍛えてあったので、速く安定したスピードで漕ぎ続けることができた。足の裏には、彼らの思いの重さが加わっていた。
最高速度でぶっ飛ばして、額に汗を光らせる。晩夏の風を受けながら、少年たちは追いかける。
たとえそれが人間の力では到底及ばないものだったとしても、愛し続ける自信が彼らにはあった。

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ほらほら、あの人から言いたいことがあるみたいですよ☆

シスコ「お前はオレだけ見とけばいいんだよ」

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