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いやはや、まずいことになった。
別に私に兄がいる、という事実を隠している訳ではないからそれは別にいい。それは。
問題は今私の目の前に立ちはだかる2人の先輩だ。
この2人が、しかも能力が使える状態で揃えば、私の話す意思とは関係なく搾り取られるだけの情報を搾られる。
失礼な話、どちらかだけならまだどうにかなる。
テヒョン先輩だけなら逃げちゃえばいいし、ナムジュン先輩だけなら嘘を言うことも可能。
しかし2人揃えば逃げられないし嘘もつけない。
「その身内の名前は?いつの卒業生?今は何してるの?」
顔を覗き込むテヒョン先輩から目を逸らし口を噤んでも。
「チェ A。『話せ』。」
ナムジュン先輩。
「……チェ イェジュン。
2年前の卒業生で、私の実兄です。
先日、前線で戦死を。」
なんか頭も痛くなってきた。
ナムジュン先輩のが何なのかは分からないが恐らく反動はずっと食らっているだろう。
厄介すぎる、せめてナムジュン先輩の『動くな』という命令だけでも解除できたら。でも、先生方でさえ『仕上がっているから気をつけろ』と言うほど。私が逃れられる訳がない。
いや、でも逃げないと。
暗示系の能力である兄から聞いた話だが、彼の能力にも効くだろうか。いや、効くかどうかはこの際二の次だ。
噛み切らないギリギリの力で、自分の舌を噛む。
よく分からないが、彼もそこそこの強い能力なので反動は大きいはず。ある一定の距離を逃げられれば多分大丈夫だろう。
いける、動きさえすれば逃げられる。
祈るような気持ちで、舌を噛みながら手を前に出す。するとさっきまで彫刻のように動きを止めていたそれは動いた。
よかった、暗示系から逃げるには痛みだと言った兄の発言がとても役に立った。
「っ、なんで………ッ!!」
驚いた様子で目の前に立つナムジュン先輩を全力で突き飛ばす。コンクリートの塀に叩き付けられるように吹っ飛ぶ先輩。
流石にそこまでの力は無いはずだが、今はそんなことに構っていられない。
「先輩すみません、これに懲りたらもうやめてください。失礼します!」
彼の横を謝りながら走り抜ける。
テヒョン先輩もグクくんも、流石に彼が心配なのか私を追ってくる素振りはなかった。
慌てて家の鍵を開けて中に駆け込む。
バクバクとなる心臓を抑え込んでどうにか私は兄の部屋に駆け込んだ。
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