8.心拍数 ページ9
▽▲▽
『せめて差額だけでも払わせて?』
「えぇ…、ここは僕に顔立てさせてよ」
『あっ、じゃあ焼きいもは私の奢りね』
「…はいはい」
Aの頭は既に芋でいっぱいらしい。
フランクフルトとりんご飴はもういいの?
500円もしないやきそばくらい、
遠慮しないで食べちゃえばいいのに。
見た目に反して結構頑固だし、
こうだと思ったら譲らないところがある。
それすらも、僕には可愛くてたまらないんだ。
「いらないの?紅しょうが」
『…辛いし、食べられないの』
りんご飴は好きそうだし、甘党なのかな。
パックの隅に寄せられた紅しょうがを覗き見て、
僕はまた口走ってしまう。
「もらっていい?」
この子といると調子が狂うんだ、
理性より欲が先に突っ走って止まらなくなる。
この子としたいこと、してあげたいこと、
思いついたらすぐ行動に表れてしまうんだ。
しまったと思った時には既に遅く、
僕はAを見つめたまま固まってしまった。
『食べてくれるの?』
「…Aが、気にしないなら」
『全然。むしろ食べてほしい』
差し出されたパックに箸を伸ばして、
真っ赤な紅しょうがを自分のに移す。
箸の先が紅色に染まって、
僕は無意識にしょうがだけを口に運んだ。
『…辛くないの?』
「辛いよ」
『じゃあなんで食べたの?』
「…分からない、かな」
嘘だ。本当はたぶん分かってる。
たとえ普通の紅しょうがでも、
君から貰えただけで嬉しくてたまらないから。
紅しょうががなくなったAのパックの中身はあっという間に平らげられ、焼きそばは跡形もなく消えた。
僕が完食したタイミングで立ち上がり、
ハンカチを畳みながらAが言う。
『無一郎くんはどこか行きたい所ないの?』
大方自分に合わせてもらっているとでも思ってるんだろう。すごく申し訳なさそうな顔をしていた。
「特にないんだよね、ほんとに。
だからAの行きたい所に連れて行ってよ」
好きな子の行きたい所は自分の行きたい所。
Aといられるならそれだけでいいんだ。
空のパック2つを入れた袋を持って、
Aの両手からハンカチを抜き取った。
「次どこ行きたい?焼きいも食べに行く?」
『…あそこ、』
Aが指差した先に食べ物の屋台はなく、
ヨーヨー釣りや金魚すくいの店が並んでいた。
いまいちどこを指差しているのか分からず、
目についた店を適当に聞いてみた。
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指切り(物理) - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ。いやぁホントに神すぎます! (2022年4月5日 10時) (レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ぱらさん» 全部の言葉が光栄でしかないです、めっちゃ幸せです…!!こちらこそありがとうございます🙇♀️ (2021年11月11日 17時) (レス) @page24 id: 423a130570 (このIDを非表示/違反報告)
ぱら - 楽しく読ませて頂きました!一個一個の言葉が胸に染みました…!素晴らしい作品をありがとうございます!! (2021年11月8日 17時) (レス) id: 1cfc9a3f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ミユモンさん» わあぁありがとうございます光栄です…っ!!のんびり更新ですがどうぞお付き合いください🙇🏻♀️ (2021年10月28日 23時) (レス) @page11 id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
ミユモン(プロフ) - 言葉の使い回しがすごく好みです…更新頑張ってください🙌✨ (2021年10月28日 20時) (レス) id: 2ad0dd50d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さつむいこん | 作成日時:2021年10月7日 23時