7.フラジール ページ8
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浴衣って暑いんだろうか、
額が汗ばんで前髪が張りついている。
どうしよう、触れてもいいかな。
前髪を直してあげることくらい雑作もないのに、
それすらも躊躇ってしまうんだ。
好きだから、ただそれだけの理由で。
『…無一郎くん?』
「……ごめん、嫌なら、言ってね」
触れたくなかったといえば嘘になる。
むしろもっと近づきたくてたまらなかった。
人差し指でそっと持ち上げてやれば、
またふんわりと立ち上がった艶々の髪。
いつもより薄めにセットされたそれは少し巻いてあるようで、いつもとは雰囲気が違った。
『ありがと』
「…どういたしまして」
やきそばの屋台に並んで順番を待つ。
その間もAは他の屋台が気になるのか、キョロキョロ見回してはいちいち目を輝かせていた。
何か見つける度に僕のシャツを引っ張るからろくに心臓が休まる暇もない。
『ね、あそこの輪投げのお菓子美味しそう』
『りんご飴食べたくなってきた…』
『フランクフルトも食べたい、あっち』
よくもまぁ屋台だけでこんなに盛り上がれるものだと感心するほど、並んでいる間はそんな話ばかり。
それも大半が食べ物の話。
見た目とは違った意外なところがまた1つ、
今夜も見つけられた気がする。
『あっ』
「まだ何かあるの?」
『焼きいも!』
「…この暑い中?」
Aの視線の先を追ってみれば、
"石焼き芋"と暖簾が下がった小さな屋台。
祭りで焼きいも…、と思ったけれど、
どうやらそれなりにお客が入ってるようだ。
一方のAは食べたくてたまらないらしく、他の店を見ていた時とは比べ物にならないほどに目を輝かせている。
お金を屋台の人に渡した僕は、
思わず苦笑いをしながらAへ話しかけた。
「やきそば食べてからね、一緒に行こう」
『うん……、あれ?』
「はいよ、毎度ありぃ」
「ありがとうございます」
2パック入ったビニール袋を受け取って、
近くに空いている石段を見つけた僕。
目でAに合図を送れば伝わったようで、
ひとまず僕達はそこまで歩いていった。
「ほら、座ろ」
『でも…、悪いよ』
「いいから」
Aが僕の敷いたハンカチの上に遠慮がちに腰かけるのを見て、僕も隣に腰を下ろした。
袋から1パックを出してAの膝に置くと、また焦り出す。
『払わせちゃってごめん…、何円だった?』
「いいって、これくらい奢られておいてよ」
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指切り(物理) - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ。いやぁホントに神すぎます! (2022年4月5日 10時) (レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ぱらさん» 全部の言葉が光栄でしかないです、めっちゃ幸せです…!!こちらこそありがとうございます🙇♀️ (2021年11月11日 17時) (レス) @page24 id: 423a130570 (このIDを非表示/違反報告)
ぱら - 楽しく読ませて頂きました!一個一個の言葉が胸に染みました…!素晴らしい作品をありがとうございます!! (2021年11月8日 17時) (レス) id: 1cfc9a3f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ミユモンさん» わあぁありがとうございます光栄です…っ!!のんびり更新ですがどうぞお付き合いください🙇🏻♀️ (2021年10月28日 23時) (レス) @page11 id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
ミユモン(プロフ) - 言葉の使い回しがすごく好みです…更新頑張ってください🙌✨ (2021年10月28日 20時) (レス) id: 2ad0dd50d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さつむいこん | 作成日時:2021年10月7日 23時