2.いかないで ページ3
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剣道部は夏季大会の代表選考が始まり、
僕もメンバーに入ることになった。
炭治郎に善逸、伊之助、女子はカナヲ。
伊之助は二刀流ではあったけれど、
元鬼殺隊がこれだけいれば安泰だろう。
炭治郎は部長と話し合いがあるらしく、
今日の帰り道は僕1人。
ボーッとしながら坂を上ろうとしたら、
あのトランペットの音色が耳にとどいた。
「あ」
何かの映画に入ってた曲だっけ。
昨日より長い、ゆったりした曲。
僕が見たらそれも充分難しそうだけど、
その子は難なく吹き終えて次の練習へ。
先刻のものは練習曲だったのかな、
速すぎる指回しの激しそうな曲になった。
『……誰?』
真っすぐ続く1本の坂道のせいで、
僕は隠れる術もなく見つかってしまった。
まぁ見つかったものは仕方ないか。
小さく肩をすくめた後、
その子のいる方へ歩いていく。
「君上手いんだね、1年なのに」
制服のリボンに入った赤ラインは、
僕と同じ学年であることを示していた。
それに、分厚くなった楽譜ファイル。
黒に金字の入ったこのファイルは、
コンクールメンバー専用らしいから。
「55人に入ってるんでしょ、すごいね」
吹奏楽部の夏と言えばコンクール、
運動部で言うところの夏季大会。
出場できる人数には上限があって、
たしか高校の部は55人だったはずだ。
うちの吹奏楽部は部員数も多いし、
1年でメンバー入りなんて特殊枠。
そんな思いで声をかけてみたら、
その子は眉をひそめて小さく呟いた。
『…ううん、すごくないの』
「へ?」
『ソロを取らなきゃ意味ないから』
その子が指差す譜面の箇所を見れば、
鉛筆で太く囲まれた"Solo"の文字。
楽譜は読めないから分からないけど、
先刻の難しそうな曲はこれなんだろう。
たった数小節ほどの長さしかないのに、
楽譜が読めない程に書き込みされていた。
「…3年も出るんでしょ?」
『うん、もちろん』
「じゃあ3年がやるんじゃないの?」
『ううん。私の方が上手かったら、私が吹く』
トランペットを構えたその子は、
先刻と同じソロの部分を吹き上げていく。
艶のある音を近くで聞いていたら、
体が心地いい振動を感じ取り始めた。
高難度の曲をノーミスで吹く。
彼女はそれじゃあ満足できないみたいだ。
『…もっとできるの、できるのに……』
常に上を求めて頑張る女の子に、
なぜだか僕はずっと弱いのかもしれない。
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指切り(物理) - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ。いやぁホントに神すぎます! (2022年4月5日 10時) (レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ぱらさん» 全部の言葉が光栄でしかないです、めっちゃ幸せです…!!こちらこそありがとうございます🙇♀️ (2021年11月11日 17時) (レス) @page24 id: 423a130570 (このIDを非表示/違反報告)
ぱら - 楽しく読ませて頂きました!一個一個の言葉が胸に染みました…!素晴らしい作品をありがとうございます!! (2021年11月8日 17時) (レス) id: 1cfc9a3f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ミユモンさん» わあぁありがとうございます光栄です…っ!!のんびり更新ですがどうぞお付き合いください🙇🏻♀️ (2021年10月28日 23時) (レス) @page11 id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
ミユモン(プロフ) - 言葉の使い回しがすごく好みです…更新頑張ってください🙌✨ (2021年10月28日 20時) (レス) id: 2ad0dd50d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さつむいこん | 作成日時:2021年10月7日 23時