17.メルト ページ18
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ほぼ密着したままの状態で電車に揺られること4駅分、僕達は人の流れに押されながらホームへ降りた。
ここからAの家の最寄り駅までは乗り換えだけど、その車両も混むのは間違いない。
はぐれないようにAの手をそっと握って、
向かい側にある3番線乗り場へ急いだ。
「…楽器重くない?持とうか?」
『ありがと。でもこれは自分で持ちたいの』
彼女の腕の中に抱えられた黒色の楽器ケースは光沢を持っていて、なめらかな表面が艶々と輝きを見せる。
奏者にとって、楽器は命よりも大切。
その言葉が今までよく分からなかったけど、この子を見ていたらなんとなく理解できる気がする。
「そっか」
『あ、電車来るよ』
.
人も少なくなった電車に揺られ、窓の外にある景色が住宅街へ変わる頃、Aの最寄り駅に到着した。
ちなみに僕の家までは折り返しなので、
Aと一緒に下車するのも普段と同じだ。
『ごめんね、わざわざ…。遠回りなのに』
「僕が好きでやってるんだから気にしないの」
申し訳なさそうに謝るAの額を指で軽くぐりっと押してやると、怒ったように僕を見る。
眉間に皺を寄せて怒りを表現してるけど、
僕はそれすらも可愛くて仕方がない。
「じゃあね」
『うん、おやすみなさい』
ニコニコと手を振るAに応えてから、
向こう側のホームに繋がる階段へ向かう。
人混みに紛れるその寸前、
もう一目彼女を見ようと振り返った。
トランペットを持った彼女はちょうど定期をかざして改札を通るところ。
「…僕だけ、か」
もう一度姿を見たいと思うのも、僕だけ。
完全な片想いとしか言いようがないよな。
そう思ってため息をつき、腕時計に目をやる。
遅れたら兄さんに叱られるなぁ。
諦めて帰ろうとして、手首に落としていた視線を持ち上げたところでAと目が合った。
「…あ」
僕だけじゃなかった。
ここから声はとどかないけど、通じるかな。
声は出さずに大きく口を動かしてみる。
"またあした"
5音をゆっくり口パクすると、
彼女は分かってくれたみたい。
ふんわり笑って手を振りながら伝えてくれた。
"バイバイ"
もちろん僕もすぐに口の動きを読み取って、
もう一度、今度は大きく手を振った。
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指切り(物理) - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ。いやぁホントに神すぎます! (2022年4月5日 10時) (レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ぱらさん» 全部の言葉が光栄でしかないです、めっちゃ幸せです…!!こちらこそありがとうございます🙇♀️ (2021年11月11日 17時) (レス) @page24 id: 423a130570 (このIDを非表示/違反報告)
ぱら - 楽しく読ませて頂きました!一個一個の言葉が胸に染みました…!素晴らしい作品をありがとうございます!! (2021年11月8日 17時) (レス) id: 1cfc9a3f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ミユモンさん» わあぁありがとうございます光栄です…っ!!のんびり更新ですがどうぞお付き合いください🙇🏻♀️ (2021年10月28日 23時) (レス) @page11 id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
ミユモン(プロフ) - 言葉の使い回しがすごく好みです…更新頑張ってください🙌✨ (2021年10月28日 20時) (レス) id: 2ad0dd50d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さつむいこん | 作成日時:2021年10月7日 23時