1.弱虫モンブラン ページ2
▽▲▽
「あっつ……」
「時透くん、今日もすごかったな〜!!
さすが前世は霞柱ってところだな!」
「ちょっ、大きな声で言わないでよ」
剣道部で汗を流した帰り道は、
いつも炭治郎と一緒だ。
前世の記憶を持つ僕たちだけど、
同じ部活の伊之助やらは忘れているみたい。
まぁ僕もあまり覚えていないんだけど。
うちの高校は敷地が広く、
剣道部の練習場所から門までは少し遠い。
家の方面的にも裏門に出る僕達は、
グラウンドを横切った先の坂を登る。
校庭と校舎を一望できるこの坂道は、
告白場所として有名らしい。善逸談だ。
「…ん、何の音だ?」
「吹奏楽部の誰かじゃない?」
剣道部に並んで全国常連なんだから、
遅くまで練習していても別に変じゃないし。
そんな風に思って歩いていたら、
坂道を登った先に人影を見つけた。
夏の湿っぽい風にその子の髪がなびいて、
金色のトランペットが構えられる。
次の瞬間、音が飛び出した。
「綺麗な子だなぁ、善逸がいたら喜びそうだ」
「…うん」
10秒にも満たずに終わったそれは、
きっと練習曲か何かなんだろう。
あの子にとっては肩慣らしでしかない、
少しの息抜き程度くらいの軽い曲。
そんな曲に、僕は釘づけになっていた。
「どこかで…、会ってたっけ」
そんな錯覚を起こすくらい、
あの子のトランペットに聞き惚れていた。
目が離せなくなる。
夕焼けに照らされるトランペットにも、
あれを吹いているあの子そのものにも。
「どうしたんだ、立ち止まって」
「あ…」
「……知り合いか?時透くんの」
「いや、分からない。人違いだと思う」
そんな会話をしていたら、
坂のてっぺんまで登りきってしまった。
うん、やっぱり人違いなんだろう。
あの子は楽譜に何か書き込むのに夢中で、
僕の方に目もくれなかったから。
僕はあの子を知らないし、
あの子もきっと僕を知らない。
「しかし凄いな、綺麗な音だったし」
「うん」
坂の下に広がるグラウンドに響き渡るトランペットの音色は、いつまで経っても鳴りやまなかった。
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指切り(物理) - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ。いやぁホントに神すぎます! (2022年4月5日 10時) (レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ぱらさん» 全部の言葉が光栄でしかないです、めっちゃ幸せです…!!こちらこそありがとうございます🙇♀️ (2021年11月11日 17時) (レス) @page24 id: 423a130570 (このIDを非表示/違反報告)
ぱら - 楽しく読ませて頂きました!一個一個の言葉が胸に染みました…!素晴らしい作品をありがとうございます!! (2021年11月8日 17時) (レス) id: 1cfc9a3f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいこん(プロフ) - ミユモンさん» わあぁありがとうございます光栄です…っ!!のんびり更新ですがどうぞお付き合いください🙇🏻♀️ (2021年10月28日 23時) (レス) @page11 id: dc07c220d6 (このIDを非表示/違反報告)
ミユモン(プロフ) - 言葉の使い回しがすごく好みです…更新頑張ってください🙌✨ (2021年10月28日 20時) (レス) id: 2ad0dd50d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さつむいこん | 作成日時:2021年10月7日 23時