朝と君と待雪の花 14 ページ44
「……今日も晴れていますね」
庭は光に満たされていた。楽園のようだ。穏やかな美しさを前に、心がすぅっと楽になる。
「フォッフォッ!」
フォウが頭から降りて、プランターに近づく。くんくんと興味のままに、小さな鼻面は花弁の中へ埋まる。
「あっ、そんなに近寄ると」
「フォックチッ!」
盛大なくしゃみのあとにひっくりかえり、前足で鼻をこしこしとこする。フォウの姿にマシュもAも顔を見合わせ、くすり、と笑った。
「マシュさん、これ」
「はい、スノードロップ……待雪草ですね」
「ここで咲いたの?」
「いいえ」
しゃがんで、光を浴びる花をそっと手のひらで包む。
「優しい方が持ってきて下さったんです」
マシュの脳裏に、豊かになびく青髪と、好戦的な横顔が浮かぶ。槍を扱う手で、こんなにも美しい花を咲かせて。
「お花みたいに、優しいひと?」
「はい」
「大切なひとなのね」
少女は穏やかに頷く。花を見つめる瞳はひどく大人びていて、彼女もまた花と誰かを重ねているのだろうか。
「……私には、まだよく、わかりません。誰かを大切、だと思う、その気持ちは。でも」
ぎゅ、と、胸の前で指を緩く握り込む。
「もうすぐ、この旅の後、きっと、わかる気がします」
日差しは穏やかなまま。ガラスの向こうの空は青い。今なら外に出ても美しい景色を目にできるのだろうけれどーーーー全ての特異点への旅を終えるまで、その機会はお預けだ。
花と戯れるフォウを見ていて、ふと思い出す。
「……あ、そういえば、このお花、人には贈ってはきけないそうです。死を望む、という花言葉があるらしくて」
だからプロトは渡さず、ここへ置いたのだろう。この方が、みんなで花を愛でられる。
「……わたしは、贈ってもらえたら、うれしい」
「えっ?」
思わず少女の方へ顔を向ける。薄い瞼を伏せて、どうしてか幸せそうに笑っている。
「わたしの、心臓。あのひとが、さいごにもらってくれる。そう言ってくれたの」
花に飽きたか、フォウが少女の膝に飛び乗る。白い体毛に顔を埋めながら、歌うように呟く。
「あの人をおもいながら、さいごまで生きられる。あの人はそれを許してくれた」
「Aさん……」
危険な、思想だ。子どもが抱くにはあまりにも。
マシュは、それでも、どうしても、間違っているとは言えなかった。
ーーーー恋は偉大だよ
ロマニがかつて口にした言葉だ。
ーーーー人を、変えてしまう。元に戻れなくしてしまうんだ
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Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 碧依さん» わわわわ感想ありがとうございます!!2度もいただいてもったいない……!は、発狂!そこまで萌えていただけて嬉しいです!いつも応援ありがとうございます、3部頑張ります! (2018年1月11日 0時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - ありささん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章から読んでいただけて嬉しいです!3章楽しみにしていただけている気持ちに答えられるよう頑張ります、応援ありがとうございます……! (2018年1月10日 16時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
碧依(プロフ) - 第2部完結おめでとうございます!最後の方は超絶キュンキュンして悶えながら読んでました← もう心の中で発狂してました← 第3部も続くとのことで、とても嬉しいです! 心待ちにしています! これからも頑張って下さい! (2018年1月10日 14時) (レス) id: e83e0a514a (このIDを非表示/違反報告)
ありさ(プロフ) - はじめまして、一章から楽しく読ませていただいております!三章が凄く楽しみです!これからも頑張ってください!! (2018年1月10日 13時) (レス) id: 5124bcd214 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - いよりさん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章かは2章まで読んでいただけて嬉しいですありがとうございます……!3章もハラハラドキドキ、きゅんきゅん多めな展開を目指して頑張りますので、よろしくお願いします! (2018年1月9日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Sandoriyon0000 | 作成日時:2017年12月13日 23時