朝と君と待雪の花 13 ページ43
「……朝だろう、そろそろ行くぞ」
「ん」
少女はぴょんとベッドから飛び降りて、狂王の指を掴んだ。時おり振り返ってはにこにこと機嫌が良さそうにしている。この光景自体、いつもの朝だというのに。
……狂王はどうにも、落ち着かない。黙りこくっていると、心配そうに見上げてくる。
「くー? 嫌だった?」
ぱ、と離された手をつかみ直したのは、咄嗟のことだった。
「くー……?」
「離れるな」
零れた言葉は、意識の外のものだ。ぽん、と、思考する前に口が勝手に言ったのだ。
たまらないのが少女の素直さである。様子がおかしいことに気づけばいいものを。
「わかった」
はにかんでしっかり手を握る。慕われていることは知っていたが、狂王は自覚した。
その小さな手に宿る温度と、くすぐったそうな微笑みに、Aにどれだけ好かれているか。
嬉しい、嬉しい、という気持ちを口元に忍ばせる少女の足取りは軽く、のびのびとしていた。
(どうすりゃいいんだ……)
どっ、どっ、と、心臓が熱い。原因不明の状態に狂王は戸惑い、眉を寄せた。頬が切られた後のようにじんじんと熱を持っている。視線はAに定まったまま。
これまで普通に接触ーーーー以上のことができていたのも不思議なくらいだ。
(もういっそ殺せ)
ーーーーその後、二人が向かった食堂ではあちらこちらでひそひそと驚愕の声があがったのはいうまでもない。ただ、仕掛けたプロトだけが「ようやくか」とニマニマとにやけていた。
「Aさん」
マシュは食後、皿を運ぶ小さな姿にそっと声をかけた。エミヤに皿を渡してすぐ駆け寄ってくる。
(犬、いや猫……いや、うさぎ??)
なにかの動物の子どもを彷彿とさせるあいくるしさで、Aは跳ねるようにやってきた。ここへやってきた時よりうんと元気になったな、と思う。折れそうな華奢さより、快活さが全面に出ている。そして、こんなにも楽しそうに人の名前を呼ぶ。
「マシュさん」
ーーーー恋って偉大だ。マシュは微笑む。
「すいません、お呼び立てして。これから、お時間ありますか?」
「うん!」
「お庭に行きましょう、見せたいものがあります」
ぴょんと、どこからともなく現れたフォウが頭に乗っかる。
「フォウさんも行きますか?」
「フォッ!」
「それでは、みなさんで行きましょう」
マシュは自然と少女の手を引いて食堂を出る。
「マシュがお姉ちゃんしてる……」
マスターといえば、後輩に身悶えでいた。
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Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 碧依さん» わわわわ感想ありがとうございます!!2度もいただいてもったいない……!は、発狂!そこまで萌えていただけて嬉しいです!いつも応援ありがとうございます、3部頑張ります! (2018年1月11日 0時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - ありささん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章から読んでいただけて嬉しいです!3章楽しみにしていただけている気持ちに答えられるよう頑張ります、応援ありがとうございます……! (2018年1月10日 16時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
碧依(プロフ) - 第2部完結おめでとうございます!最後の方は超絶キュンキュンして悶えながら読んでました← もう心の中で発狂してました← 第3部も続くとのことで、とても嬉しいです! 心待ちにしています! これからも頑張って下さい! (2018年1月10日 14時) (レス) id: e83e0a514a (このIDを非表示/違反報告)
ありさ(プロフ) - はじめまして、一章から楽しく読ませていただいております!三章が凄く楽しみです!これからも頑張ってください!! (2018年1月10日 13時) (レス) id: 5124bcd214 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - いよりさん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章かは2章まで読んでいただけて嬉しいですありがとうございます……!3章もハラハラドキドキ、きゅんきゅん多めな展開を目指して頑張りますので、よろしくお願いします! (2018年1月9日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Sandoriyon0000 | 作成日時:2017年12月13日 23時