朝と君と待雪の花 09 ページ38
あまりにも軽い身体を胸に引き込み、Aが先程したように、顔を撫でる。手のひらには頬を寄せ、眠りを邪魔しない程度に答えてやる。
すり、と、時々少女の方からも微かな応えがあった。何度目かの拍子に、くてんと狂王の胸にAが顔を預ける形になる。ちょうどおさまりがいいのか、眠りはすぐに深まった。
狂王はそのとき、表情は動いていないつもりだったが、傍から見れば、かつてないほど穏やかな顔でAを見つめていた。
(このまま二人でどこか遠くまで行くか？ A)
あの夜の世界でのように、狂王の胸に祈りめいた願いが去来する。どこへもいけない、行けるはずなどない。だからせめて、狂王は願う。
(お前のすべて、俺は覚えていたい)
ーーーー奇しくも同じ願いを抱いたことなど知らぬまま、狂王は故意にAの唇へ静かに爪を押し当てた。ぷつりと破けた皮から、僅かに血が滲む。
そっと落とした口付けは鉄臭く、これくらいが自分には似合いだと狂王は思う。ようやく遠のいた欲求に安堵し、今度こそAを抱いて眠りについた。
｢先輩、お風邪の方いかがですか？｣
｢ん！ だいぶ楽｣
ベットの上でマスターはにこにこと上機嫌だ。声もやや掠れているが元の調子を取り戻しつつある。
｢あのね、マシュ｣
不意に改まって、マスターは切り出す。
｢この風邪が治ったら、次の特異点に行こうと思う。マシュ、いけそう？｣
｢……はい、先輩｣
｢また頑張ろうね｣
｢はい！｣
次の、特異点ーーーーマシュは気持ちを新たにマスターの部屋を後にする。庭の前を通り過ぎたとき、プロトの言葉を思い出した。
｢とっておき……｣
なんだろう。興味から戸を開ける。
今日も光の入り込む部屋の隅ーーーー見慣れない小さな花が咲いていた。
｢これは……｣
手のひらくらいの、本当に小さな花だ。雪のように白い花弁にマシュは心当たりがあった。
｢待雪草、スノードロップ……！｣
ダ・ヴィンチが見せてくれた絵本にあった。雪に色を与えた優しい花。アダムとイブを嘆きから救った希望の花。楽しそうに指さして教えてくれたAも喜んでくれたらいいなと思って｢待雪草が見たい｣とプロトの前で零した。
｢覚えていてくれたんですね……｣
絵で見るよりもうんと可憐で綺麗だ。あわよくば仮想で見れればいいなと諦めていたけれど、まさかこんな形で目にすることができるなんて。
｢……今回のレイシフトも、素敵な旅になりそうです｣
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Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 碧依さん» わわわわ感想ありがとうございます！！2度もいただいてもったいない……！は、発狂！そこまで萌えていただけて嬉しいです！いつも応援ありがとうございます、3部頑張ります！ (2018年1月11日 0時) (
レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - ありささん» はじめまして！感想ありがとうございます！1章から読んでいただけて嬉しいです！3章楽しみにしていただけている気持ちに答えられるよう頑張ります、応援ありがとうございます……！ (2018年1月10日 16時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
碧依(プロフ) - 第2部完結おめでとうございます！最後の方は超絶キュンキュンして悶えながら読んでました← もう心の中で発狂してました← 第3部も続くとのことで、とても嬉しいです！ 心待ちにしています！ これからも頑張って下さい！ (2018年1月10日 14時) (レス) id: e83e0a514a (このIDを非表示/違反報告)
ありさ(プロフ) - はじめまして、一章から楽しく読ませていただいております！三章が凄く楽しみです！これからも頑張ってください！！ (2018年1月10日 13時) (レス) id: 5124bcd214 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - いよりさん» はじめまして！感想ありがとうございます！1章かは2章まで読んでいただけて嬉しいですありがとうございます……！3章もハラハラドキドキ、きゅんきゅん多めな展開を目指して頑張りますので、よろしくお願いします！ (2018年1月9日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Sandoriyon0000 | 作成日時：2017年12月13日 23時
