朝と君と待雪の花 03 ページ32
「……そうだな」
「へ?」
あっさり認めた狂王に、からかうつもりだったプロトは拍子抜けだ。
狂王は淡々と続ける。
「俺は知らん。アレが何を思い俺と共にあろうとするか。もう見えん歩けんという訳でもなかろうに」
「鳥のひなが初めて目にしたものを親と思うのと同じ感覚だろう。あの子にはお前しかいなかったんだし」
「だとしても今は違う。面倒見の良い野郎はごまんといる」
「じゃあ答えはひとつだ」
プロトは空を仰ぎながら言う。
「好きなんだろ、クー・フーリンのオルタっていうヤツが」
男として好きかどうかはしらねぇけど、と付け加える声にからかう響きはなく、背を押す力強さと優しさがあった。
「お前はどうなんだよオルタ。感情の起伏なんてほとんどないお前が、数少ないそれをかき集めて思うところはあるのか?」
狂王は眉を寄せた。不愉快から来るのではなく、考えたことがなかったからだ。
「……あれは俺のもの、それだけだ」
あーん? と納得いかないらしいプロトが唸る。
「じゃあ一緒に風呂でも入ったらどうだ? 裸見たらはっきりするだろ、お互い」
「……ガキの裸見てどうしろってんだ」
「馬鹿だな、将来はあのぺたんこが立派に育つかもしれねぇんだぞ? 滾らねぇでどうする!!」
力説されてもひとつも響いてこない。
「……触れてるだけで、いい。アレは小さくてうっかり壊しかねん」
話は済んだ。狂王は庭を出て、次の暇つぶしを探す。残されたプロトは、ぶはっ、と噴き出した。
(自覚がねぇぶんやべぇな。壊すことも殺すことも厭わないお前が、そんな慎重に扱う時点で相当心の奥に棲ませてんだよ、オルタ)
第一、気づいていないわけではないだろうに。プロトが言うまでもなく、少女は狂王を心の底から慕っている。異性に向ける感情より純粋なぶん、扱いかねているのかもしれない。
「やれやれ、難儀だなァ」
プロトはがしがしと頭をかく。
当事者以上に第三者は見えてくるものが多い。
狂王も少女も、先を望んでいないのだ。いや、望むことを知らない、というのが正しいか。
少女は恋を知らない。そしえ狂王は心が空だ。欲、と形作るほど鮮烈な感情を、本来は持たない。芽生えつつあること自体、奇跡だった。
そんな二人が行き着いた形。ただそばにいられるのなら、それで満ち足りている、穏やかさ。
プロトは願う。ーーーーどうか。
このままでいるのなら、それもいい。いつかくる別れの時、あの二人に後悔がないように、と。
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Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 碧依さん» わわわわ感想ありがとうございます!!2度もいただいてもったいない……!は、発狂!そこまで萌えていただけて嬉しいです!いつも応援ありがとうございます、3部頑張ります! (2018年1月11日 0時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - ありささん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章から読んでいただけて嬉しいです!3章楽しみにしていただけている気持ちに答えられるよう頑張ります、応援ありがとうございます……! (2018年1月10日 16時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
碧依(プロフ) - 第2部完結おめでとうございます!最後の方は超絶キュンキュンして悶えながら読んでました← もう心の中で発狂してました← 第3部も続くとのことで、とても嬉しいです! 心待ちにしています! これからも頑張って下さい! (2018年1月10日 14時) (レス) id: e83e0a514a (このIDを非表示/違反報告)
ありさ(プロフ) - はじめまして、一章から楽しく読ませていただいております!三章が凄く楽しみです!これからも頑張ってください!! (2018年1月10日 13時) (レス) id: 5124bcd214 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - いよりさん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章かは2章まで読んでいただけて嬉しいですありがとうございます……!3章もハラハラドキドキ、きゅんきゅん多めな展開を目指して頑張りますので、よろしくお願いします! (2018年1月9日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Sandoriyon0000 | 作成日時:2017年12月13日 23時